・・・衆徳備り給う処女マリヤに御受胎を告げに来た天使のことを、厩の中の御降誕のことを、御降誕を告げる星を便りに乳香や没薬を捧げに来た、賢い東方の博士たちのことを、メシアの出現を惧れるために、ヘロデ王の殺した童子たちのことを、ヨハネの洗礼を受けられ・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・あるいはまた名高い給孤独長者も祇園精舎を造るために祇陀童子の園苑を買った時には黄金を地に布いたと言うことだけである。尼提はこう言う如来の前に糞器を背負った彼自身を羞じ、万が一にも無礼のないように倉皇と他の路へ曲ってしまった。 しかし如来・・・ 芥川竜之介 「尼提」
・・・「童子連は何条いうて他人の畑さ踏み込んだ。百姓の餓鬼だに畑のう大事がる道知んねえだな。来う」 仁王立ちになって睨みすえながら彼れは怒鳴った。子供たちはもうおびえるように泣き出しながら恐ず恐ず仁右衛門の所に歩いて来た。待ちかまえた仁右・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・一番あとのずんぐり童子が、銃を荷った嬉しさだろう、真赤な大な臀を、むくむくと振って、肩で踊って、「わあい。」 と馬鹿調子のどら声を放す。 ひょろ長い美少年が、「おうい。」 と途轍もない奇声を揚げた。 同時に、うしろ向・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・その中に馬琴の『美少年録』や『玉石童子訓』や『朝夷巡島記』や『侠客伝』があった。ドウしてコンナ、そこらに転がってる珍らしくもないものを叮嚀に写して、手製とはいえ立派に表紙をつけて保存する気になったのか今日の我々にはその真理が了解出来ないが、・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・三歳の童子もよくこれを知っているといいたいところである。円い玉子はこのように切るべきだと、地球が円いという事実と同じくらい明白である。しかし、この明白さに新吉は頼っておられなかったのだ。よしんば、その公式で円い玉子が四角に割り切れても、切れ・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・四五歳の童子や童女達であった。「見てやしないだろうな」と思いながら堯は浅く水が流れている溝のなかへ痰を吐いた。そして彼らの方へ近づいて行った。女の子であばれているのもあった。男の子で温柔しくしているのもあった。穉い線が石墨で路に描かれて・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・かかる間に卓上の按排備わりて人々またその席につくや、童子が注ぎめぐる麦酒の泡いまだ消えざるを一斉に挙げて二郎が前途を祝しぬ。儀式はこれにて終わり倶楽部の血はこれより沸かんとす。この時いずこともなく遠雷のとどろくごとき音す、人々顔と顔見合わす・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・水門を下ろす童子あり。灘村に舟を渡さんと舷に腰かけて潮の来るを待つらん若者あり。背低き櫨堤の上に樹ちて浜風に吹かれ、紅の葉ごとに光を放つ。野末はるかに百舌鳥のあわただしく鳴くが聞こゆ。純白の裏羽を日にかがやかし鋭く羽風を切って飛ぶは魚鷹なり・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ 道二つに岐れて左の方に入れば、頻都廬、賽河原、地蔵尊、見る目、かぐ鼻、三途川の姥石、白髭明神、恵比須、三宝荒神、大黒天、弁才天、十五童子などいうものあり。およそ一町あまりにして途窮まりて後戻りし、一度旧の処に至りてまた右に進めば、幅二・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
出典:青空文庫