・・・夜は、その微笑が見えないかもしれないから、無邪気に童謡を口ずさみ、やさしい人間であることを知らせようと努めた。これらは、多少、効果があったような気がする。犬は私には、いまだ飛びかかってこない。けれどもあくまで油断は禁物である。犬の傍を通る時・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・その前に据えた机の上にのせたポータブルの蓄音機から何かは知らないが童謡らしいメロディーが陽気に流れ出している。若い婦人で小学校の先生らしいのが両腕でものを抱えるような恰好をして拍子をとっている。まだ幼稚園へも行かれないような幼児が多いが、み・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・そして自然にこんな童謡のようなものが口ずさまれた。「三毛のお墓に花が散る。こんこんこごめの花が散る。芝にはかげろう鳥の影。小鳥の夢でも見ているか。」それからあとで同じようなものをもう三つ作って、それに勝手な譜をつけていいかげんの伴奏をもつけ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・とくに童謡「停車場」などは、大人のこしらえる童謡につきものである甘たるさ、感傷がちっともなく、子供が眼玉をぐりっとむいて、一生懸命眺めている停車場の感情がそっくり表現の中に生かされていて、たいへん爽快である。「おちば」は、やや長じた子供らに・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・革命前の童謡や、自由詩、そしてその後に生れた子供達がどう云うようなものを作り歌っているか、面白いと思ってます。それから日本などには未だ本当の田園文学と云うようなものはないようですが、ロシヤのその後のものなど興味を感じてます。戦後に非常に衰え・・・ 宮本百合子 「ロシヤに行く心」
出典:青空文庫