・・・自分はこの問題に関してまだ少しも系統的に考察をしてみたわけではないが、ただわずかばかり思いついただけのことをここにしるしてそういう考察の端緒とし、また後日の参考に供したいと思う。 ある一つの市井の人事現象、たとえばある銅像の除幕式の光景・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ また火山の生因として海水が地下に滲透し、それが噴火山の根を養うという現代でもしばしば繰り返される仮説もまたその端緒をルクレチウスに見いだすことができるのである。 ナイルの洪水の問題についても四箇条のオルターネティヴがあげてある。こ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・これが悶着の端緒である。之を避けるには便所へでも行くふりをして烟の如く姿を消してしまうより外はない。当時の無頼漢は一見して、それと知られる風俗をしていた。身幅のせまい唐桟柄の着物に平ぐけをしめ、帽子は戴かず、言葉使は純粋の町言葉であった。三・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・二つの作品には自然発生的な萌芽として、新しい日本の人民生活の文学の端緒と、現代文学が私小説から脱却してゆく可能の方向及びこれからの日本文学が実質的に世界文学の領野に参加し、そこでになってゆくべき現実の性格などについて、示唆をふくんでいる。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・ プロレタリア文学運動が、端緒的であった自身の文学理論を一歩一歩と前進させながら、作品活動も旺盛に行っているのに対して、ブルジョア文学は、そのころから不可抗に創造力の衰退と発展性の喪失をしめしだした。日本資本主義高揚期であった明治末及び・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作者はいわゆる筆が立つと・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 作家が、作家となる最も端緒的な足どりは周囲の生活と自分のこうと思う生活との間で自覚される摩擦である。階級的にどんな立場をとるに至るにしろ、先ず自己というものの意識、それを確立しようとする欲望から出立することは小林多喜二の日記を見てもわ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・わたしとしては、過去のプロレタリア・リアリズムが主張した階級対立に重点をおいた枠のある方法では、階級意識のまだきわめて薄弱な女主人公の全面を、その崩壊の端緒をあらわしている中流的環境とともに掬いあげ切れない。佐々という中流層の家庭の崩壊過程・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・モチーフを、「作家の内的要求が、テーマの直観的な端緒を」とらえるものとして理解することは、私たちの心の具体的なありように即している。「モチーフとは、作品にとっては作者なる母体につながる臍の緒である」本当にそうではないだろうか。 例えば青・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・いるし、努力的な勉強にも学ぶべき点を発見していますが、この一点に関してはおそらく作者自身より、あるいは野上さんが十分自覚されなかったであろうほど、それを社会的な意味で自分自身が作家的生涯において解決の端緒をあたえなければならない重荷のひとつ・・・ 宮本百合子 「女流作家多難」
出典:青空文庫