・・・ こうした趣向の新しさを競う結果は時にいろいろな無理を生じる。たとえば大地震で大混乱を生じている同じ町の警察のあたりでは何事もなかったらしいようなおかしい現象を生じている。 それでも事件の展開が簡単でなくて、一つの山から次の山へと移・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・美しさを競うて飾り立てた店先を軒ごとに覗き込んでいた。竹村君はこうして店先を覗くのが一つの楽しみである。ことに懐に金のある時にそうである。陰気な根津辺に燻ぶっていて、時たま此処らの明るい町の明るい店先へ立つと全く別世界へ出たような心持になっ・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・それ故、徒に新奇を競うて、外国人の営む生活の形骸を真似るのは、全く笑うべく悲しむべきことです。 併し、一国の文化、社会状態を観察した場合に、何時も、その裏面、消極的方面のみに注目するのは、果して妥当な態度でしょうか。 他人の話を聞き・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・美を装い艶を競うを命とする女、カラーの高さに経営惨憺たる男、吾人は面に唾したい、食を粗にしてフェザーショールを買う人がある。家庭を破壊してズボンの細きを追う人がある。雪隠に烟草を吹かし帽子の型に執着する子供を「人」たらしむべき教育は実に難中・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫