・・・ これは笑い話ではない。私は不思議でならないのだ。日本では偉い作家が死んで、そのあとで上梓する全集へ、必ず書簡集なるものが一冊か二冊、添えられてある。書簡のほうが、作品よりずっと多量な全集さえ、あったような気がするけれど、そんなのには又・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・そしてそれが一つの笑い話の種になっていた。私も人並みに笑ってはいたが、その老人の不思議な行為から一つのなぞのようなものを授けられた。そうして今日になってもそのなぞは解く事ができないでそのままになっている。のみならずこのなぞは長い間にいろいろ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・つまらない笑い話のようで実はかなり深刻な人間心理の一面を暴露していると思う。こんなのも何かの小説の種にはならないものかと思う。 それはとにかく、正月をめでたいという意味が子供の時分から私にはよくわからなかったが、年を取ってもやはりまだ充・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・例えばこんな笑い話があった。ある学会で懸賞問題を出して答案を募ったが、その問題は「コップに水を一杯入れておいて更に徐々に砂糖を入れても水が溢れないのは何故か」というのであった。応募答案の中には実に深遠を極めた学説のさまざまが展開されていた。・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 笑い話で、その時は帰ったが、陽子は思い切れず、到頭ふき子に手紙を出した。出入りの俥夫が知り合いで、その家を選定してくれたのであった。 陽子、弟の忠一、ふき子、三日ばかりして、どやどや下見に行った。大通りから一寸入った左側で、硝子が・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・自分では写真機を余りもたず、外国を旅行したとき伯林でこんな笑い話を友達からきいた。ドイツの小学生に先生が質問した。日本人と米国人とはどこがちがいますか? 子供の答えに曰く。年よりで、ズボンに筋がなくて、眼鏡をかけて、写真機をもっているのが日・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 笑い話として、男のひとたちは、文化の創造に際して婦人の特色のように見える以上のような現象の説明に、それは芸術神たちは女だから男を御贔屓さというけれども、そもそも芸術神を三人とも女性で象徴したことのうちには、神をもわが手でこしらえた男の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・そして、世界各国の歴史を通じて何故婦人作家が男より少ないか、ということを云い出したが、問題をまともに追究せず、笑い話で下げにしてしまった。 何故男より女の作家が少ないかと云えば、文学を司る神はミューズで、ミューズは女性だ。だから動物電気・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫