・・・そしていろいろ人を笑わせるつもりらしい粗暴なあるいは卑猥な言語を並べたりした。「あの曲がった煙突をかくといいんだがなあ」などという者もあった。「文展へ行って見ろ、島村観山とか寺岡広業とか、ああいうのはみんな大家だぜ、こんなのとはちがわあ」「・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・なぞと当意即妙の毒舌を振って人々を笑わせるかと思うと罪のない子供が知らず知らずに前の方へ押出て来るのを、また何とかいって叱りつけ自分も可笑そうに笑っては例の啖唾を吐くのであった。 縁日の事からもう一人私の記憶に浮び出るものは、富坂下の菎・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・そのみのない横柄ぶりが武士大名への諷刺として可笑しく笑わせるのだった。その「ねぶか」のなかに、長屋の男が新しく来る女房と、取り膳でお茶づけをたべるたのしさを空想して、俺がザラザラのガアサガアサとたべると、女房はさぞやさしくチンチロリンのサア・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ どうしたら怒らせまいかと思い患う前に先ずその一つ先の笑わせる事を考えます。 彼等が生活というものを真剣に考える事は、我国の婦人の及ばないところだろうと思います。 生活は彼女等にとって遊戯ではございません。生きなければならないと・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・おできのあとか何か、頭の殆ど中央に一銭銅貨位のおはげがあるのが皆をやたらに笑わせる。ロシア人はパンをくれと云う事を、 メリゴスゴスと云うと私に教えた。そんな事はないだろうと云ってもきかない。私のきいたのに間違の有ろうはずがな・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 何が卿を笑わせる? 何がお前を笑わせる? 黒坊――。〔一九二〇年三月〕 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・当時の笑い草に、憲法発布ときいた江戸っ子が、何でエ絹布のはっぴだって、笑わせるねえ、はっぴは木綿にきまったもんだ! と啖呵をきった笑話がある。 当時の人民層がおもっていた社会と政治感覚のこんな素朴さ。しかし、官員万能であり、時を得た人、・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫