・・・ 又 わたしは度たびうそをついた。が、文字にする時は兎に角、わたしの口ずから話したはいずれも拙劣を極めたものだった。 又 わたしは第三者と一人の女を共有することに不平を持たない。しかし第三者が幸か不幸・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・これはまた、そう云う現象が、第三者の眼にも映じると云う、実例になりましょう。Stilling 教授が挙げているトリップリンと云うワイマアルの役人の実例や、彼の知っている某M夫人の実例も、やはり、この部類に属すべきものではございませんか。・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ 真に愛するものを持たぬ人や、真に愛するものを死なしたことのない人に、どうして今の自分の悲痛がわかるものか、哲学も宗教も今の自分に何の慰藉をも与え得ないのは、とうていそれが第三者の言であるからであるまいか。 自分はもう泣くよりほかは・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・またあなたは御自分に対して侮辱を加えた事のない第三者を侮辱して置きながら、その責を逃れようとなさる方でも決してありますまい。わたくしはあなたが、たびたび拳銃で射撃をなさる事を承っています。わたくしはこれまで武器というものを手にした事がありま・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・併し第三者の私には実に冷たい悲しい事に感ぜられるのである。此所が私にとって、文芸の二者が分岐する道であると思われるのである。 即ち一は此の生活の根柢の何であるかを問わず、只管に日常生活の中に経験と感覚とを求めて自我の充実を希い、一は色彩・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・真剣であるならば、その態度に対して、第三者は、いさゝかの疑念をも挾むことができないだろう。即ち、作家の態度が第一義に即しているならば、――独り作家に限らない、すべての思想家がまた、――それは、粛殺な気にみち、理想を追求し、信念に燃えているの・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・又あなたは御自分に対して侮辱を加えた事の無い第三者を侮辱して置きながら、その責を逃れようとなさる方でも決してありますまい。わたくしはあなたが、たびたび拳銃で射撃をなさる事を承っています。わたくしはこれまで武器と云うものを手にした事がありませ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・どっちも或る第三者を計算にいれてものを言っているのだからな。そうだろう?」何か私の知らない仔細があるらしかった。 佐竹は陶器のような青白い歯を出して、にやっと笑った。「もう僕への用事はすんだのかね?」「そうだ」馬場はことさらに傍見を・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 作中の典拠を指摘する事が批評家の知識の範囲を示すために、第三者にとって色々の意味で興味のある場合もかなりにある。該博な批評家の評註は実際文化史思想史の一片として学問的の価値があるが、そうでない場合には批評される作家も、読者も、従って批・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ 不幸な夫ルパートが「第三者」アリスンの部屋から二階の妻ジュリーの部屋への隠れた通い路を発見して、暗い階段をびっこ引きながら上がって行く。二階からはピアノが聞こえて来る。階段を上りつめてドアの前に少時佇む。その影法師が大きく映る、という・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
出典:青空文庫