・・・のみならずいろいろな雑音はその音源の印象が不判明であるがために、その喚起する連想の周囲には簡単に名状し記載することのできない潜在意識的な情緒の陰影あるいは笹縁がついている。音の具象性が希薄であればあるほど、この陰影は濃厚になる。それだから、・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それが徴兵検査であっただけにそのびっくりはかなり複雑な感情の笹縁をつけたびっくりであったのである。 とうとう前歯までがむしばまれ始めた。上のまん中の二枚の歯の接触点から始まった腐蝕がだんだんに両方に広がって行って歯の根もとと先端との間の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ いかに現在の計測を精鋭にゆきわたらせることができたとしても、過去と未来には末広がりに朦朧たる不明の笹縁がつきまとってくる。そうして実はそういう場合にのみ通例考えられているような「因果」という言葉が始めて独立な存在理由を有するという・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫