・・・の辺の女房のいじらしい、また一筋の心理に就いては、次回に於いて精細に述べることにして、今は専ら、女房の亭主すなわち此の短いが的確の「女の決闘」の筆者、卑怯千万の芸術家の、その後の身の上に就いて申し上げる事に致します。女学生は、何やら外国語を・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・二月の事件の日、女の寝巻について語っていたと小説にかかれているけれども、青年将校たちと同じような壮烈なものを、そういう筆者自身へ感じられてならない。それは、うらやましさよりも、いたましさに胸がつまる。僕は、何ごとも、どっちつかずにして来て、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 夏の暑さに気がふれて、筆者は天狗になっているのだ。ゆるし給え。 太宰治 「天狗」
・・・の一行、昭和二十年十月十六日の事である、に到っては噴飯のほかはない。もう、ごまかしが、きかなくなった。 私はいまもって滑稽でたまらぬのは、あの「シンガポール陥落」の筆者が、戦後には、まことに突如として、内村鑑三先生などという名前が飛び出・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・叱られるのは、いやな事ゆえ、筆者も、とにかく初枝女史の断案に賛意を表することに致します。ラプンツェルは、たしかに、あきらめを知らぬ女性であります。死なせて下さい、等という言葉は、たいへんいじらしい謙虚な響きを持って居りますが、なおよく、考え・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・そういうこしらえ物でなくて、実際にあった事件を忠実に記録した探偵実話などには、かえって筆者や話者の無意識の中に真におそるべき人間性の秘密の暴露されているものもある。そういうものを、やはり一つの立派な実験文学と名づけることも、少なくも現在の立・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 末広君の学術方面の業績は多数にあって到底ここで詳しく紹介することは出来ないし、またそれは工学方面の事に迂遠な筆者の任でもないが、手近な主だったものだけを若干列挙してみると次のようなものがある。 平板に円孔を穿ったものの伸長変形に関・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・鏡の中のI氏は、実物の筆者のほうを時々じろりじろりとながめていた。舞台で見る若さとちがって、やはりもうかなり老人という感じがする。自分のほうでもひそかにこの人の有名な耳と鼻の大きさや角度を目測していた。 この人の芝居でいちばん自分の感心・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・昔ある大新聞の記者と称する人が現在の筆者をたずねて来て某地の地震についていろいろの奇問を連発したことがある。あまりの奇問ばかりで返答ができないからほとんど黙っていたのであるが、翌日のその新聞を見るとその記者の発した奇問がすべて筆者によって肯・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・それで一個人の身辺瑣事の記録には筆者の意識いかんにかかわらず必ず時代世相の反映がなければならない。また筆者の愚痴な感想の中にも不可避的にその時代の流行思想のにおいがただよっていなければならない。そういうわけであるから現代の読者にはあまりに平・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫