・・・それは当りまえのことで、何も非難される筋合いのものでは無い。日頃、同僚から軽蔑され、親兄弟に心配を掛け、女房、恋人にまで信用されず、よろしい、それならば乃公も、奮発しよう、むかしバイロンという人は、一朝めざめたら其の名が世に高くなっていたと・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・ つまり私という老人は、何一つ見るべきところが無い、それが私の本領、などと言って居直って威張り得る筋合いの事では決してございませんが、そのような男が、この地方の教育会のお歴々に向って、いったい何を講演したらよろしいのでありましょうか。残・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・またポチに恨まれる筋合もない。復讐されるわけはない。「だいじょうぶだろうね。置いていっても、飢え死するようなことはないだろうね。死霊の祟りということもあるからね」「もともと、捨犬だったんですもの」家内も、少し不安になった様子である。・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫