・・・しかし後年芝居を見るようになってから、講談筆記で覚えた話の筋道は非常に役に立った。 東京の家からは英語の教科書に使われていたラムの『沙翁物語』、アービングの『スケッチブック』とを送り届けてくれたので、折々字引と首引をしたこともないではな・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・するとそれを御聞きになるあなたがたの方から云えば初めの十分間くらいは私が何を主眼に云うかよく分らない、二十分目ぐらいになってようやく筋道がついて、三十分目くらいにはようやく油がのって少しはちょっと面白くなり、四十分目にはまたぼんやりし出し、・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・――全体君が豆腐屋の伜から、今日までに変化した因縁はどう云う筋道なんだい。少し話して聞かせないか」「聞かせてもいいが、何だか寒いじゃないか。ちょいと夕飯前に温泉に這入ろう。君いやか」「うん這入ろう」 圭さんと碌さんは手拭をぶら下・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・うような事は全く嘘ではないので、それも因果の一部には相違ないけれども、宇宙に行われて居る因果の道理は単に倫理の上を支配するような簡単なるものではないので、一方には倫理上から或人に幸を与えるような因果の筋道になって居っても、また他の方からは同・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・自分のささげた犠牲を十分胸にたたみこんでいて、そのねうちを評価していて、それについて語ることのできる場面におかれれば、自分にとって最も熱情のわき立つ話題として、自分を殺して生きて来たその筋道について語るだろう。そういうとき、自分の犠牲が、社・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・今日一般に歴史的な読書への傾きがつよめられて来ているが、その原因には、目前の無説明な、紛糾に対して何とか会得の筋道を見出したい切実な要求も動いている。 系譜的作品に向う必然にそういう要因のあることもわかるけれども、それならばと云って、多・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 千葉先生には、何もわかっていなかっただろうが、私としては、この興味のふかい西洋史の時間のおかげで、自分の渾沌世界に、どうやら整理をつけるおぼろげな筋道を与えられたのであった。 千葉先生が熱心に教えられるその眼を見ると、感動が心に湧・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・プロレタリア文学運動の時代、インテリゲンツィアのこの問題は、こういう筋道では文学にとらえられませんでした。プロレタリアの陣営にうつるか、同伴者として存在するか、反動にかたまるか、脱落するか、インテリゲンツィアの行く道は、そういうふうに幾通り・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・日本の社会を自分達の勤労によって育て上げ、その発展を担って来た人民である男も女も、自分達の祖先がどのようにして生きたか、社会はどういう筋道を辿って今日迄来たか、随って、未来はどう発展するのが合理的であるかということについての見透しは、これま・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫