・・・この世界の英傑のなかに、ちょうどわれわれの留まっているこの箱根山の近所に生まれた人で二宮金次郎という人がありました。この人の伝を読みましたときに私は非常な感覚をもらった。それでドウも二宮金次郎先生には私は現に負うところが実に多い。二宮金次郎・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・右を見ると伊豆の国というものの大きさがぼんやり分かるようであり、左を見下ろすと箱根山の高さのおおよその概念が確定するような気がする。女車掌が蟋蟀のような声で左右の勝景を紹介し、盗人厩の昔話を暗誦する。一とくさり述べ終ると安心して向うをむいて・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・国府津へ国男が父親になった記念に大変いいラジオをすえつけて上げたので親父さんはもう、東京だと思って聞いていたらそれは上海であったというようなことがなくてすみます。箱根山の関係で、これまでのでは調子がわるく、うまくきこえるのは却って遠いそっち・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫