・・・買って来たのは玄米らしく、精米所へ搗きに出しているのが目につく。ある一人の女が婉曲に、自分もその村へ買い出しに行こうと思うが売って呉れるだろうかとS女にたずねてみた。農家は米は持っているのだが、今年の稲が穂に出て確かにとれる見込みがつくまで・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・働くということ以外には、何も考えなかった。精米所の汽笛で、やっと、人間にかえったような気がした。昼飯を食いにかえった。昼から、また晩の七時頃まで働くのだ。 トシエは、座敷に、蝿よけに、蚊帳を吊って、その中に寝ていた。読みさしの新しい雑誌・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・うちの精米場の手伝いもあまりしなくなりました。煙草の味も覚えました。酒を飲んで人に乱暴を働くようにもなりました。夜這いも、しました。(噴嘘、嘘。もうその辺からみんな嘘ね。男のひとって、なぜそんな見え透いた嘘をつくんだろう。ご自分の嘘がご・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・否、この男は逃げたのだ。精米屋は骨折り、かせいで居る。全身を米の粉でまっしろにして、かれの妻と三人のおとこの鼻たれのために、帯と、めんこのために、努めて居る。私、精米の機械の音。」「佐藤春夫曰く、悪趣味の極端。したがってここでは、誇張された・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・台の下に四輪車のついたものが精米をやっている米屋の裏の方へつづいているレールの上に置いてある。米俵はそれで運搬されている様子である。米のことが皆の心配の種になって、来月から七分搗と云われていた時、この米屋の前を通ると夜十二時頃でも煌々と電燈・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・陸軍で極めている一人一日精米六合というのを迥に超過している。石田は考えた。自分はどうしても兵卒の食う半分も食わない。お時婆あさんも春も兵卒ほど飯を食いそうにはない。石田は直にお時婆あさんの風炉敷包の事を思い出した。そして徐にノオトブックを将・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫