・・・ 案内記が系統的に完備しているという事と、それが読む人の感興をひくという事とは全然別な事で、むしろ往々相容れないような傾向がある。いわゆる案内記の無味乾燥なのに反してすぐれた文学者の自由な紀行文やあるいは鋭い科学者のまとまらない観察記は・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 以上は口調というちょっとつかまえ処のないようなものを何とかして系統的に研究しようとする方法の第一歩を暗示するものだとして見てもらわれれば仕合せである。 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・の間に色々の詳しい研究があり、次第にその問題の解決に向かって着実な考察の歩を進めているのであるが、しかし、それはなかなか素人の考えるような容易な仕事でないのであって、先ず何よりも出来るだけ多くの精密な系統的な観測材料を蒐集し整理するのが基礎・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・もし講義の内容が抜け目なく系統的に正確な知識を与えさえすればいいとならば、何も器械の助けを借りるまでもなくその教師の書いた原稿のプリントなり筆記なりを生徒に与えて読ませれば済む場合もあるわけである。甲の講義を乙が述べてもそれでたくさんなわけ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・自分はこの問題に関してまだ少しも系統的に考察をしてみたわけではないが、ただわずかばかり思いついただけのことをここにしるしてそういう考察の端緒とし、また後日の参考に供したいと思う。 ある一つの市井の人事現象、たとえばある銅像の除幕式の光景・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ここはちょっと一つの独立な区画になっている、戦争前には哲学、美術、科学とそれぞれの部門にわたって系統的に分類して陳列されていたのが、このごろではもう目ぼしいような物は大概売り切れてしまって、いろいろな部門のものが雑然と入り乱れている。ドイツ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・もし他日機会があったら、もう少し系統的にこれらの問題を考究してみたいという希望をもっている。 寺田寅彦 「耳と目」
・・・発言をおさえられ、おさえる力を系統的に打破してゆくことができなかった反ファシズムの心があったからこそこの日本で、今日世界の平和に役立とうとする熱情があるのです。 かつてはグルーの知ることのできなかった日本人民の意志を、人民として世界に共・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ドイツ人にも汎く交際を求めて見たが、丁度日本人に日本の国語を系統的に知った人が少いと同じ事で、ドイツ人もドイツ語に精通してはいない。それから日本人の書いたドイツ文や、日本人のドイツ語から訳した国文を渉猟して見たが、どれもどれも誤謬だらけであ・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫