・・・その中で比較的成効しているのは、サヴィニャク伯爵が恋敵のモーリスの化けの皮を引きはぐつもりで鹿狩りを割愛し、半日がかりで貴族系譜の数十巻をしらみつぶしに調べ上げ、やっと目的を達したと思うと、ド・ヴァレーズのでたらめを鵜のみにする公爵のあほう・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・ この作品評で、宇野氏が生態の描写ということをよくないとして、おのずから系譜的作品がそれとちがうべきことを暗示していることも興味がある。文学精神の低さについて関心を示している青野氏が、この作品が生態描写風に傾いていることは肯定して、生態・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・その他のいわゆる系譜的作品の主人公を常に女性において来たこの作者の現実への角度が甦って来る。現実の推移をその受動性のために最もあからさまに映してゆく女性が、系譜的な作品にとって、てっとりばやい主人公とされていたことに、この系列の文学の弱さが・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・ 日本文学におけるデカダニズム、エロティシズムは、悲劇的な系譜をもっているといえないでしょうか。ヨーロッパの近代文学におけるデカダンス、エロティシズムは、つねに、小市民的町人的モラルにたいする反抗として現われました。日本の近代文学におけ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・のように系譜的作品であるが、ここにあらわれているシチェードリンの作家的力量は、地主社会の崩壊の姿をその背後によこたわる歴史にまでしっかりその指先をふれて掴み出し、生々しく描き出し、驚くばかりの感銘を与える。シチェードリンが、十九世紀中葉の帝・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
出典:青空文庫