・・・いきなり、けらけらと笑ったのは大柄な女の、くずれた円髷の大年増、尻尾と下腹は何を巻いてかくしたか、縞小紋の糸が透いて、膝へ紅裏のにじんだ小袖を、ほとんど素膚に着たのが、馬ふんの燃える夜の陽炎、ふかふかと湯気の立つ、雁もどきと、蒟蒻の煮込のお・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・オリブ色の吾妻コオトの袂のふりから二枚重の紅裏を揃わせ、片手に進物の菓子折ででもあるらしい絞りの福紗包を持ち、出口に近い釣革へつかまると、その下の腰掛から、「あら、よし子さんじゃいらッしゃいませんか。」と同じ年頃、同じような風俗の同じよ・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・ 十一日にりよは中奥目見に出て、「御紋附黒縮緬、紅裏真綿添、白羽二重一重」と菓子一折とを賜った。同じ日に浜町の後室から「縞縮緬一反」、故酒井忠質室専寿院から「高砂染縮緬帛二、扇二本、包之内」を賜った。 九郎右衛門が事に就いては、酒井・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫