・・・翌日、その運転手が通いつめていた新世界の「バー紅雀」の女給品子は豹一のものになった。むろん接吻はしたが、しかしそれだけに止まった。それ以上女の体に近づけない豹一を品子は狂わしくあわれんだが、しかし、豹一は遠くで鳴っている支那そば屋のチャルメ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 四 紅雀 年を取った独身の兄と妹が孤児院の女の児を引取って育てる。その娘が大きくなって恋をする、といったような甘い通俗的な人情映画であるが、しかし映画的の取扱いがわりにさらさらとして見ていて気持のいい、何かしら美・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・僕は毎日百遍ずつ息をふきかけて百遍ずつ紅雀の毛でみがいてやりましょう」 兎のおっかさんも、玉を手にとってよくよくながめました。そして言いました。 「この玉はたいへん損じやすいという事です。けれども、また亡くなった鷲の大臣が持っていた・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・今の一日はそうして気ままに歌をうとうて舞をまうて居なされ、声の美くしい駒鳥も姿のよい紅雀もつれて来てお相手さしょう。第二の精霊 そうして居なされ。お主にそうして居られると私共は涙のこぼれるほど安心なおだやかな心持になれるのじゃ。美くしい・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ ところが四五日前、一羽の紅雀が急に死んで仕舞った。朝まで元気で羽並さえ何ともなかったのに、暮方水を代えてやろうとして見ると、思いもかけない雄の鮮やかな紅葉色の小さい体が、淋しく止木の下に落ちて居たのである。 艷やかな羽毛の紅色は褪・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・ 全く、彼等の天候に支配されることといったら、私以上の鋭さである。紅雀、じゅうしまつ、きんぱら、文鳥などが一つがい、二つがいずついる。少し空が曇り、北風でも吹くと、元気な文鳥以外のものは、皆声も立てず、止り木の上にじっとかたまって、時雨・・・ 宮本百合子 「小鳥」
出典:青空文庫