・・・ 童話は、全く、純真創造の世界であります。本能も、理性も、この世界にあっては、最も自由に、完美に発達をなし遂げることが出来るのであります。何者の権力を以てしても、この自由を束縛することができない。 私は、童話の世界を考えた時に、汚濁・・・ 小川未明 「『小さな草と太陽』序」
・・・ 子供の純真な姿を見た者は、決して、この人間に対して、絶望をしないであろう。もし人間が救われないものなれば、誰か、人間に対して、理想と信条を有し得よう。誰か、人間の生活について、希望を持ち得よう。 こゝに至って、私は、現在の社会につ・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・それは自分の思想感情を、多少自由に表白することが出来るようになったところから、思想感情のありのまゝを伝える素直な純真な文章ではもの足らなくなって、強いて文字の面を修飾し誇張しようとする弊である。 修飾や誇張は、その人の思想感情が真に潤沢・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・そしてさらに不幸なことには、このことは人生一般の事象を見る目の純真性を曇らすのだ。快楽の独立性は必ず物的福利を、そして世間的権力を連想せしめずにはおかぬ。人間がそうした見方を持つにいたればもはや壮年であって、青春ではないのである。 事実・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 人間教育者としてのわれわれの任務を思うとき、われわれは彼ら純真の若き生命に対し、生と人間性とを最高の可能性において、その存在の神秘性において、提起しておかなければならない命令を感じる。 たとい彼らにとって当面には、そして現実身辺に・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・徳、善、道というものへの憧れのまじらないような恋愛は純真な恋愛ではない。女性は美しく、力強い男性を選ぶのだが、善い、高貴な素質をそなえた男性をこれと切り放すことなしに求めねばならぬ。恋愛するときに、この徳への憧れが一緒に燃え上がらないような・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ しかしすべての結合がこういった純真な悲劇で終わるとはもとより限らない。ある者はやむなく、ある者は苦々しく、またある者は人生の知恵から別れなければならないのである。有名な「新生」の主人公は節子に数珠を与えるがやはり別れねばならなかった。・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
「純真」なんて概念は、ひょっとしたら、アメリカ生活あたりにそのお手本があったのかも知れない。たとえば、何々学院の何々女史とでもいったような者が「子供の純真性は尊い」などと甚だあいまい模糊たる事を憂い顔で言って歎息して、それを・・・ 太宰治 「純真」
・・・にわかに詩人の友だちもふえて、詩人というものはただもう大酒をくらって、そうして地べたに寝たりなんかすると、純真だとか何だとか言ってほめられるもので、私も抜からず大酒をくらって、とにもかくにも地べたに寝て見せましたので、仲間からもほめられ、そ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・けなげでもあり、また純真可憐な王子さま。老婆は、にやりと笑いました。「よろしい。ラプンツェルを、末永く生かして置いてあげましょう。わしのような顔になっても、お前さまは、やっぱりラプンツェルを今までどおりに可愛がってあげるのだね?」 ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫