・・・苦しい種々の表象が私の心のなかを紛乱して通った。突然、私は母に向かって言った。「あの路へ歩いてゆきましょう。あの路へ歩いて出ましょう。私達はどんなに見えるでしょう」「ええ、歩いてゆきましょう」華やかに母は言った。「でも私達がどんなに・・・ 梶井基次郎 「闇の書」
・・・ 彼等はいずれもそれぞれの時代、それぞれの形で、人間は不合理と紛乱と絶望の頁を経験したが、それでも猶、窮極に人間は絶望しきらず、非合理になりきらず、人生は謙遜に愛すべきものであることを語っている作家たちだ。 彼等はそれぞれの制約に対・・・ 宮本百合子 「彼等は絶望しなかった」
・・・一九三六年の声明に絶えずうなされながら猶且つ一般の国民の祖国を愛する真情に対しては第五列の意味をもっているケリリスの活動やドーデの活躍に余地を与えなければならなかった原因は、フランス経済・政治のどんな紛乱からであったかという事実までを、現実・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・重畳する波瀾をとおして、もし私たちが女としてただ一つの善意さえ現実に成り出させようと願うなら、いつの時代よりも世紀の紛乱におどろきひるまない判断と、沈着な意志とが求められていることは、明かではないだろうか。 こうして私たちは少しずつ少し・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
私たち一般人の日常生活の内外に相関連する社会的現実は、この二三年益々複雑多岐、錯綜、紛乱を極めて来ている。こういう社会の激しい矛盾の有様は、将来どうなってゆくのであろうか。今日このように巨大決裂の予感を感じさせている社会は・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・アニー・パイルも、こんにちの階級社会の紛乱とそのわれ目におちこむ多数の人々の不幸、不幸になってはじめてその人にとってその不幸の性質が理解されるような不幸について、深い理解と同情をもつすぐれた人々の一人であった。そして、一握りの人間が、決して・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
出典:青空文庫