・・・元禄袖の着物に紫紺の袴、靴をはいた少女が、教室の退屈からのがれてこの高机の前に立ち、手を高くのばして借出用紙を出したとき、それをうけとった黒い上っぱりの人が、あなたまだ十六になっていないんでしょう? ときいた。早生れの二年生であったから、十・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・タータタタと空に響くオルガンのメロディーにつれて、えび茶や紫紺の袴をつけた六十人ほどの少女が、向い会って、いっせいにヨーロッパ風に膝をかがめ、舞踏の挨拶をするのであった。その運動場は、トタン塀にかこまれていて、黒板塀の方に桜の樹が並んでいた・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・化学教室には厚板の実験台があり、ガス管と水道とが備わっていて、紫紺や海老茶の袴をつけ、袂の着物を着た女学生たちは、その実験台に向って席に着いた。左手に首をねじって、ボールドと先生とを見るわけであったが、化学の一時間は何と余力の欠けた、溌溂と・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
出典:青空文庫