・・・私はこの作者が、都会人らしく自身の経験を単なる偶然のこととして眺めすてず、執拗に、具体的に心理、情景の細部をも追究して後篇を完成することを深く希望する。この作者が歴史の進歩的な面への共感によって生きようとしている限り、よしんば偶然によって貯・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・そこでの現実の見聞をもって作品の細部を埋め、そのことであるリアリティーを創り出しつつ、こちらから携帯して行った諸問題を背負わせるにふさわしい人物を兵の中に捉え、全く観念の側から人間を動かして、結論的にはそれらの観念上の諸問題が人間の動物的な・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・その困難な期間に発刊されたさまざまの文化・文学雑誌は、編輯同人のグループはそれぞれに別個だし、編輯方針の細部でもそれぞれのある独自性を発揮しつつ、たとえば『文学評論』はすでに第二巻に進み、綜合的な文化雑誌『文化集団』はこの一月第三巻第一号ま・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そのような現実に対する作品の本来は負の骨組みを覆うて、作品の現実性を信じさせる条件としてこの作者は一方で小説の細部の具体性は実に洩れなく書き堅める用意を忘れないため、一層その主題の一ねじりに於て加えられている作者の意識しての手の力は、人生へ・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・を、もう一度手入れさせ、真の現代古典としてのこるにふさわしいだけもっと大切な歴史的細部を充実させ、もっと主要な諸人物を典型として確立させる機会を与えることも、一つの方法である。全篇の構成をもっと研究し、ある部分ははるかに短縮され、ある部分は・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・生の愚弄ということはこのようにして私共の日々の細部に沁みこんでいる。封建制というものが私達の全力をあげて打ち破らなければならないものであるということはこの一つにさえ充分現われている。 私達は、自分の生をいとおしんでいる。生きるに甲斐・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・の小説としての価値は、私という主人公が勤労生活のうちにあるさまざまの半封建的な、搾取的な細部を感じつつ生きてゆくそのことを、いわゆる、進歩的勤労者の自覚した認識というような観念にてらして描きださず、生きてゆく細目そのもので描きだしているとい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・けれども、その作品の世界に描かれている社会的・階級的現実の本質を理解し、作品においてその本質の細部を感覚にうけとれるものとして実在させている描写の方法やその特質を理解して、自分の描こうとしている作品への参考としてゆく意味では、こんにち、現れ・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・の歳月が経つと、娘は益々建築家としての父の業績を愛し、理解しようと欲することが激しくなって来たのですが、父の側では、事務所の内部的組立が経営的に分化し、組織化され、父自身は元のように最初のスケッチから細部のプランまで自身が主としてやらないで・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・老年の叡智と芸術家としての不撓な洞察が、人間社会生活の現実の細部とその底流を観破ること益々具体的であるという状態であって、はじめて自然と人間関係についての見かたも、そのリアリティーと瑞々しさとを保ち得るのである。 日本の現実は多難であり・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫