・・・にしろ、取材はわるくなく、細部にフレッシュなところがあるのに、全篇の印象が何故か読者の胸にぴたりとしないのはどういうものだろう。読んでゆくうちに心が吸いよせられ、アブゾーブされ切れない。或る点まで牽きよせられ、もう一つというところで何ともし・・・ 宮本百合子 「読者の感想」
生産的な場面での女の働きは益々範囲がひろがって来ているし、そこへの需要も急速に高まっているけれども、一応独立した一個の働き手として見られている勤労婦人の毎日の生活の細部についてみれば、それぞれ職場での専門技術上の制約があり・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・ただ、よく知っている、その細部を描写しているというだけでない暖かさが阿蘭を描くバックの筆致にこもっている。そこには何か女であって初めて実感となって作者の感情の内容となっていると感じられるものが流動しているのである。外国人によって細かく観察さ・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・ しかしながら、そういう具体的な細部がそれぞれにちがっているほど、日本の働く女性として社会にもっている条件に大差があるのだろうか。このところは私たちを深く考えさせる点だと思う。 実際の条件は同じによくないのだが、勤め先が世間で通って・・・ 宮本百合子 「働く婦人の歌声」
・・・映画として観れば、細部に納得の行かぬ点、あまり好都合過ぎる点、カメラの効果の点で疑問がない訳ではなかったが、この作品が昨年度の傑作の一つとなり得たのはポール・ムニの演技がこの科学者の人間的諸感情、情熱をその仕事との綜合でまざまざと生かし得た・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・居合わせている婦人たちは、ひろ子が知っているよりもっと細部についてわかっている。けれども、十八年、監獄におかれた人は、それについて知っていて知っていないだろう。ひろ子は、そのことをことわって簡単に話した。 段々座がくつろいで、いくつもの・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 芸術上、ファッシズムに対する闘争というのは、従って極めて日常的に、細部に亙ってされなければならぬものであり、その闘争はただプロレタリア文学の正当な発展によってだけ行われ得る。それは世界のプロレタリア・ジャーナリズムの確立ということだ。・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・ 各々の手に握る鋤の形が違うように、機械が違うように、各国の闘争の細部にわたる具体性はある点違っているだろう。が、階級として搾取者に対した時、プロレタリア・農民にとっては黒坊も白坊もない。世界のプロレタリアート・農民として、ただ一本の国・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・それのもたらした新事実をあげれば、まず自然科学の進歩、社会主義の勃興、一般人民の物質的享楽への権利の主張、徹底的な虚無主義の出現――芸術上においては様式の単純化、日常生活の外形的な細部の描写の成功などであるが、そこに著しい進歩があったとは言・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・すべての細部は全体を統一する力に服属せしめられている。さらにまた先生の全著書は先生の歩いた道の標柱である。すべての作は中心を流れるいのちに従って並べられている。これらの物に親しむのはいかなる意味においても我々を益し我々を幸福にするだろう。・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫