・・・千鶴子は、どこかぎこちなく修飾した言葉つきでそれ等を訴えながら、細面の顔をうつむけ、神経的に爪先や手を動した。「私――どんな仕事をしてもいいと決心しているんですけれど――」 はる子は、「ふうむ」とうなった。「今急に心当り・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ 私は、その或る時は派手な紅色の、或る時は黒い鍔広の婦人帽の下に、細面の、下品ではないが※四、四円。一月で百二十円! ふうむ」 三月の或る晩、私は従妹や弟と矢張り尾張町の交叉点で電車を降りた。 暫くどっちに行こうと相談した結・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・先生は昔のように細面な、敏感な、眼の潤うた青年で居られた。するとその翌朝故国から来た弟の手紙が、計らずもその先生の断片的な消息を齎して来た、私は生れて始めて、此丈符合した夢を見た。人が呼ぶ偶然の裡には不思議がある。 考えて見れば、大人だ・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・襞のどっさりついた短い少女服のスカートをゆさゆささせながら、長い編上げ靴でぴっちりしめた細い脚で廊下から運動場へ出て来る細面の上には、先生の腹のなかも見とおしているような目があった。 女学校へ入ってからも、弟がその学校にいたので、私は毎・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・私はかるく目をつぶりながら「あの黒い髪をちょんまげに結わせて――よろけじまのお召の着物を着せてその青白い細面てのかおにうつりいい手をして居たら……」こんな事を思った。 斯うしたおだやかなうっとりした様な気持のさめないうちに、今の気持をソ・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・推古仏の特徴は肢体がほっそりした印象を与えること、顔も細面であること、それらを取り扱う場合に意味ある形を作り出すことが主要なねらいであって、感覚的な興味は二の次であることなどであるが、そういう特徴を持つものが雲岡の石仏の中に全然ないとは言い・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫