・・・ 恋の糸と誠の糸を横縦に梭くぐらせば、手を肩に組み合せて天を仰げるマリヤの姿となる。狂いを経に怒りを緯に、霰ふる木枯の夜を織り明せば、荒野の中に白き髯飛ぶリアの面影が出る。恥ずかしき紅と恨めしき鉄色をより合せては、逢うて絶えたる人の心を・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・その声は堂の四壁を一周して、丸く組み合せたる高い天井に突き当ると思わるる位大きい。戦は固より近づきつつあった。ウィリアムは戦の近づきつつあるを覚悟の前でこの日この夜を過ごしていた。去れど今ルーファスの口から愈七日の後と聞いた時はさすがの覚悟・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ また、片仮名にもせよ、平仮名にもせよ、いろは四十七文字を知れば、これを組合せて日用の便を達するのみならず、いろはの順序は一二三の順序の代りに用い、またはこれに交え用うること多し。たとえば、大工が普請するとき、柱の順番を附くるに、梁間の・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・レールを七つ組み合せると円くなってそれに電柱や信号標もついていて信号標のあかりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。いつかアルコールがなくなったとき石油をつかったら、罐がすっかり煤けたよ。」「そうかねえ。」「いまも毎朝新・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ けれども小猿は、急いで手帳をしまって、今度は手を膝の上で組み合せながら云いました。「仲々強情な子供だ。俺はもう六十になるんだぞ。そして陸軍大将だぞ。」 楢夫は怒ってしまいました。「何だい。六十になっても、そんなにちいさいな・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・無限の間には無限の組合せが可能である。だから我々のまわりの生物はみな永い間の親子兄弟である。異教の諸氏はこの考をあまり真剣で恐ろしいと思うだろう。恐ろしいまでこの世界は真剣な世界なのだ。私はこれだけを述べようと思ったのである。」 私は会・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 鴎外は芸術家として生れ合わせた明治という時代の特質を、漱石とは異った組み合わせで身につけていた人であったと思う。ロマンティックな要素、そしてその反面に根をはっている封建風なもの、この両者はそれぞれ独自なニュアンスをなして、云わばこの卓・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・カール・マルクスが薄色のズボンに黒の服をつけ、右脚を組み合せて椅子にかけている。私たちが見なれているカール・マルクスの写真は、がっちりとした精気あふれる顔のぐるりを房飾りのようなすき間ない鬚で囲われた風貌である。この写真のカールは、見なれた・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・作者は当時口々に云われしかも深刻な日本の現実を理由として、当然未解決のまま息苦しくおかれていた思想の諸課題を、戦争の插話的情景見聞の断片と外面的に道具立的に組み合わせて扱おうと試みた。作者としても作中の世界としてもそこに、真の思想の呼吸があ・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・もうちゃんと食卓がこしらえて、アザレエやロドダンドロンを美しく組み合せた盛花の籠を真中にして、クウウェエルが二つ向き合せておいてある。いま二人くらいははいられよう、六人になったら少し窮屈だろうと思われる、ちょうどよい室である。 渡辺はや・・・ 森鴎外 「普請中」
出典:青空文庫