・・・それも一日毎に数が増して、半年ばかり経つ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ来ないものは、一人もない位になってしまったのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又盛なことは、中々口・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・が、月日の経つのに従って、私の恐怖なり不安なりは、次第に柔らげられて参りました。いや、時には、実際、すべてを幻覚と言う名で片づけてしまおうとした事さえございます。 すると、恰も私のその油断を戒めでもするように、第二の私は、再び私の前に現・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・見給え、二日経つと君はまた何処かの下宿にころがり込むから。B ふむ。おれは細君を持つまでは今の通りやるよ。きっとやってみせるよ。A 細君を持つまでか。可哀想に。しかし羨ましいね君の今のやり方は、実はずっと前からのおれの理想だよ。もう・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・もうちと経つと、花曇りという空合ながら、まだどうやら冬の余波がありそうで、ただこう薄暗い中はさもないが、処を定めず、時々墨流しのように乱れかかって、雲に雲が累なると、ちらちら白いものでも交りそうな気勢がする。……両三日。 今朝は麗かに晴・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・おなじ写真を並んで取っても、大勢の中だと、いつとなく、生別れ、死別れ、年が経つと、それっきりになる事もあるからね。」 辻町は向直っていったのである。「蟹は甲らに似せて穴を掘る……も可訝いかな。おなじ穴の狸……飛んでもない。一升入の瓢・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・は、井筒屋のお貞(その時は、まだお貞の亭主の思いやりで、台どころ道具などを初め、所帯を持つに必要な物はほとんどすべて揃えてもらい、飯の炊き方まで手を取らないまでにして世話してもらったのであるが、月日の経つに従い、この新夫婦はその恩義を忘れた・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 三日経つと当の軽部がやってきた。季節はずれの扇子などを持っていた。ポマードでぴったりつけた頭髪を二三本指の先で揉みながら、「じつはお宅の何を小生の……」 妻にいただきたいと申し出でた。 金助がお君に、お前は、と訊くと、お君・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ とかなり手きびしく皮肉ってやったが、お千鶴は亭主のお前によりも、従妹にかんかんになっていたので、おれの言うことなど耳にはいらず、それから二三日経つと、従妹のところへ、血相かえて怒鳴りこみに行った。 口あらそいは勿論、相当はげしくつ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 二年経つと、貯金が三百円を少し超えた。蝶子は芸者時代のことを思い出し、あれはもう全部払うてくれたんかと種吉に訊くと、「さいな、もう安心しーや、この通りや」と証文出して来て見せた。母親のお辰はセルロイド人形の内職をし、弟の信一は夕刊・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・其儘で暫く経つ。竈馬の啼く音、蜂の唸声の外には何も聞えん。少焉あって、一しきり藻掻いて、体の下になった右手をやッと脱して、両の腕で体を支えながら起上ろうとしてみたが、何がさて鑽で揉むような痛みが膝から胸、頭へと貫くように衝上げて来て、俺はま・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
出典:青空文庫