・・・古来第一流の科学者が大きな発見をし、すぐれた理論を立てているのは、多くは最初直感的にその結果を見透した後に、それに達する論理的の径路を組み立てたものである。純粋に解析的と考えられる数学の部門においてすら、実際の発展は偉大な数学者の直感に基づ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・これに達した径路は問う所ではないのである。実際科学上の知識を絶対的または究極的なものと信じる立場から見ればこれも当然な事であろう。また応用という点から考えてもそれで十分らしく思われるのである。しかしこの傾向が極端になると、古いものは何物でも・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・一方で、科学者の発見の径路を忠実に記録した論文などには往々探偵小説の上乗なるものよりもさらにいっそう探偵小説的なものがあるのである。実際科学者はみんな名探偵でなければならない。そうして凡庸な探偵はいつも見当ちがいの所へばかり目をつけて、肝心・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 開化は人間活力の発現の経路である。と私はこう云いたい。私ばかりじゃない、あなた方だってそういうでしょう。もっともそう云ったところで別に書物に書いてある訳でも何でもない、私がそう言いたいまでの事であるがその代り珍らしくも何ともない。がこ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ところが維新以後四十四五年を経過した今日になって、この道徳の推移した経路をふり返って見ると、ちゃんと一定の方向があって、ただその方向にのみ遅疑なく流れて来たように見えるのは、社会の現象を研究する学者に取ってはなはだ興味のある事柄と云わなけれ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・もし我々が小説家から、人間と云うものは、こんなものであると云う新事実を教えられたならば、我々は我々の分化作用の径路において、この小説家のために一歩の発展を促されて、開化の進路にあたる一叢の荊棘を切り開いて貰ったと云わねばならんだろうと思いま・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・これから新たに文壇に顔を出そうと機を覗っている人、もしくはすでに打って出た人のうちで、今までのものとは径路を同じゅうする事を好まない事がないとも限らない。これは今までの作物に飽き足らぬか、もしくは、おれはおれだから是非一派を立てて見せると自・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・自分が世間から受ける待遇や、一般から蒙る評価には、案外な点もあるいはあるといわれるかも知れないが、自分が如何にしてこんな人間に出来上ったかという径路や因果や変化については、善悪にかかわらず不思議を挟む余地がちっともない。ただかくの如く生れ、・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・開化とは人間の energy の発現の径路で、この活力が二つの異った方向に延びて行って入り乱れて出来たので、その一つは活力節約の移動といって energy を節約せんとする吾人の努力、他の一つは活力を消耗せんとする趣向、即ち consump・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・その細い山道は、経路に沿うて林の奥へ消えて行った。目的地への道標として、私が唯一のたよりにしていた汽車の軌道は、もはや何所にも見えなくなった。私は道をなくしたのだ。「迷い子!」 瞑想から醒めた時に、私の心に浮んだのは、この心細い言葉・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
出典:青空文庫