・・・ケーベル博士は「結末をつける事、此れ何たる芸術であろう」といっていられる。動きのとれなくなった愛欲関係になおひかれて相互の運命を破局に導き、世法の威厳を踏みにじるのはたとい同情すべきであっても、正しいことではない。そこに強き意志と深き英知と・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・「あたし、もう、結末が、わかっちゃった。」次女は、したり顔して、あとを引きとる。「それは、きっと、こうなのよ。博士が、そのマダムとわかれてから、沛然と夕立ち。どうりで、むしむし暑かった。散歩の人たちは、蜘蛛の子を散らすように、ぱあっと飛・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ あやまった人を愛撫した妻と、妻をそのような行為にまで追いやるほど、それほど日常の生活を荒廃させてしまった夫と、お互い身の結末を死ぬことに依ってつけようと思った。早春の一日である。そのつきの生活費が十四、五円あった。それを、そっくり携帯・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・之が、かの悪徳の夫の最後でありました、と言えば、かのリイル・アダン氏の有名なる短篇小説の結末にそっくりで、多少はロマンチックな匂いも発して来るのでありますが、現実は、決して、そんなに都合よく割り切れず、此の興覚めの強力な実体を見た芸術家は立・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・お照も細く見えた、という結末の一句の若さに驚きました。女体が、すっと飛ぶようにあざやかに見えました。作者の愛情と祈念が、やはり読者を救っています。 私は貧乏なので、なんの空想も浮ばず、十年一日の如く、月末のやりくり、庭にトマトの苗を植え・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ ああ、思いもかけず、このお仕合せの結末。私はすかさず、筆を擱く。読者もまた、はればれと微笑んで、それでも一応は用心して、こっそり小声でつぶやくことには、 ――なあんだ。 太宰治 「狂言の神」
・・・なんとなく少しあせりぎみで、早く片を付けようとして結末を急いでいるらしく自分には思われた。ちょっと見たところでは、ベーアのほうは負けかかって逃げ回っているようにも見られた。 絶えずあとしざりをしているものを追いかけて突くのでは、相対速度・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 十五 乙女心三人姉妹 川端康成の原著は読んだことはないが、この映画の話の筋はきわめて単純なもので、ちょっとした刃傷事件もあるが、そういう部分はむしろはなはだ不出来でありまた話の結末もいっこう収まりがついていない。しか・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・そういう人になると、どこまで研究しても結末がつかない。それで結局研究の結果をまとめないで終わる。すなわち何もしなかったのと、実証的な見地からは同等になる。そういう人はなんでもわかっているが、ただ「人間は過誤の動物である」という事実だけを忘却・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・私はこの書に結末らしい結末のない事をかえっておもしろくも思うものである。実際科学の巻物には始めはあっても終わりはないはずである。 後記 ルクレチウスの書によってわれわれの学ぶべきものは、その中の具体的事象の知識でもな・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫