・・・ 一座の中で裸体になる女の給金は、そうでない女たちよりも多額である。それなら誰も彼も裸体になるといいそうなものであるが、そんな競争は見られない。普通の踊子が裸体を勤める女に対して影口をきくこともなく、各その分を守っているとでもいうように・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・政府の法正しければその給金は安きものなり。ただにこれをうらやまざるのみならず、また、したがってその人を尊敬せざるべからず。ただし国君官吏たる者も、自から労して自から食うの大義を失わずして、その所労の力とその所得の給料と軽重いかんを考えざるべ・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・また年も若く無智な暁子がその様ないきさつに這入った事には、今日の映画会社の経営方法、スターの製作法、給金は少いのに派出にばかり振舞わなければならない映画会社での無理、その他実に多くの今日の社会の矛盾や、片手落ちが暁子の例の中に集約されていま・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・ ――なるほどね。ところで、どうだい、作者はやっぱりソヴェトでも作者かい? 給金なんかどんな風なんだろう。……所謂大部屋連、下まわりっていうようなものは、存在してるのかしら。 ――現在のソヴェトでは、まだあらゆる生産の部門に、革命以前か・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 女を置いて帰って行く時、給金はどうでも好いが、 家柄も相当でございますから嫁にもあんまりな所へやりたくないって申して居りますから少しずつは進歩して行く様に御心がけ下さって。と云って行った。 千世子は何だか肩が重くな・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ゴーリキイの一年六留の給金は祖父がとっていた。ゴーリキイには金の出どころがない。貸本屋の汗かきで唇の厚い、白っぽい主人は、ゴーリキイの困りはてた云いわけを聞き終ると、脂ぎって腫んだ手をゴーリキイの前に突出して云った。「この手に接吻しな。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・例えば、パン職人たちの唯一の歓びは、給金日に淫売窟へ出かけることであった。すると、そこの「喜びのための娘たち」は酔っぱらいながら彼等に、学生や官吏や「一般に小綺麗な連中」に対する悪意のある哀訴をした。それをきくと、「教育のある人達に対する片・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫