・・・「虹の脚もとにルビーの絵の具皿があるそうです」 王子が口早に言いました。「おい、取りに行こうか。行こう」「今すぐでございますか」「うん。しかし、ルビーよりは金剛石の方がいいよ。僕黄色な金剛石のいいのを持ってるよ。そして今・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・ 画家たちは殆ど一人のこらず、紙や絹の上に実にきれいにしかも出来るだけ厚く絵の具を盛り上げることに腐心している。近づいて画面を見ると、どれも蒔絵のように塗られていて、私はこういうのをも尚描くということが出来るのであろうか、塗上げ術の問題・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・ 自分の心臓からとばしり出る血を絵の具にして尊い芸術を――不朽の芸術を完成して最後の一筆を加え終ると同時死んだ画家の気持をどの芸術家にでも持ってもらいたいと思う。 その画家が若かったか老いて居たかは私は知らないけれ共だれでもが生と死・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・唐紙、カンバス、絵の具、なつかしい切り抜きの絵、文芸雑誌――そんなものがいっぱい散らかって漸く私達の座る事の出来る所だけすきのある様なせまい二階に二人は熱にうかされた様に話し合って居る。だらしないとりとめのないような部屋の中にもどことなしに・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ しかし両者の区別は、絵の具や画布などの相違の内に、もっと根本的に横たわっているのではないのか。僕は自ら絵の具の性質と戦った経験を有していないが、ただ鑑賞者として画に対する場合にも、この事を強く感ぜずにはいられない。油絵の具は第一に不透・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・日本画にとっては心強い。氏が『竹取物語』のごとき邪路に入らずに、ますます自己に忠実な画の製作に努められんことを祈る。 例外の二は川端龍子氏の『土』である。日本絵の具をもって西洋画のごとき写実ができないはずはない――この事実を氏は実証しよ・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫