・・・赤や黄色で刷った絵草紙、タオル、木の盆、乾蕎麦や数珠を売っている。門を並べた宿坊の入口では、エプロンをかけた若い女が全く宿屋の女中然として松の樹の下を掃いたりしている。 参詣人の大群は、日和下駄をはき、真新しい白綿ネルの腰巻きをはためか・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・ 天国地獄、地獄極楽という観念の絵草紙が幸福の模様としてきめられていた時代、人々はぴんからきりまでのいとわしく苦しいものを日々の現実から抽象して地獄へあてはめ、ぴんからきりまでの望ましいものをあつめて天国の構造とした。そこへ幸福の観念を・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・この向島からのかえりには浅草の仲店の絵草紙やで、一冊五銭ぐらいのお伽噺の本を買ってもらうのがきまりであった。大抵巖谷小波の本であった。祖父の蔵書は後でどこかに寄附されたが、あのぎっしり並んで光っていた本箱の行方については全く知らない。 ・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
出典:青空文庫