・・・ 薄い繭紬みたいな布で頭をつつんだ血色のいい婦人党員は、つよく否定した。 ――みんな党外の婦人です、党は、党外の人々の助力なしに何も出来ない。……ああ、あなた、暇ですか? 百二十四番の室へ、来なければならなかった。 ――じゃ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ やがてゴリゴリする白縮緬の兵児帯などを袴着にまでしめさせて、祖父は一つのランプと一張りの繭紬の日傘とをもって国へ帰って来た。そのランプというものに燈を入れ、家内が揃ってそのまわりに坐っていると、玉蜀黍畑をこぎわけて「どっちだ」「どっち・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
・・・傍に頭を五分刈にして、織地のままの繭紬の陰紋附に袴を穿いて、羽織を着ないでいる、能役者のような男がいて、何やら言ってお酌を揶揄うらしく、きゃっきゃと云わせている。 舟は西河岸の方に倚って上って行くので、廐橋手前までは、お蔵の水門の外を通・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫