・・・ ――こいつ等は一体いつまでこんなことを続けるんだろう――と私は思った。 私はいくらか自省する余裕が出来て来た。すると非常に熱さを感じ始めた。吐く息が、そのまま固まりになってすぐ次の息に吸い込まれるような、胸の悪い蒸し暑さであった。・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ファゼーロたちの組合は、はじめはなかなかうまく行かなかったのでしたが、それでもどうにか面白く続けることができたのでした。 私はそれから何べんも遊びに行ったり相談のあるたびに友だちにきいたりして、それから三年の後には、とうとうファゼーロた・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 生きたモデルについて熱心な研究を続ける一方、若いケーテがこのベルリン時代にドイツのシムボリズムの画家として、その構想の奇抜なことや、色感が特別ロマンティックな点などで人々の注目をひいていたクリンガーの影響をも強く受けたことは注目される・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・けれども今 Kipling に匹敵する作家としては O. Henry と数え始めて二三と続ける事は出来ない。毎月毎月彼那にも沢山出る雑誌に、彼那にも沢山の作品が載りながら結局は、紙屑を拵えているのかと思う。いくら彼方此方の大学で一生懸命に「・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・手をこう云う位置に置いて、いつでも何かしゃべり続けるのである。尤も乳房を押えるような運動は、折々右の手ですることもある。その時は押えられるのが右の乳房である。 僕はお金が話したままをそっくりここに書こうと思う。頃日僕の書く物の総ては、神・・・ 森鴎外 「心中」
・・・だが、この眼前の事実のように、吸入がただ彼女の苦しみを続けるためばかりに役立っているのだと思うと、彼は彼女の生命を引きとめようとしている薬材よりも、今は、彼女の生命を縮めた漁場の魚に、始めて好意を持ちたくなった。しかし、医師は法医学に従って・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・貧、富、男、女、層々とした世紀の頁の上で、その前奏に於て号々し、その急速に於て驀激し、その伴奏に於てなお且つ奔闘し続ける、黙示の四騎士はこれである。もしも黙示の彼らが、かかる現前の諸相であると仮定したなら、彼らの中の勝者はいずれであるか。曾・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・女が構わずに語り続けるからである。そしてその女の声は次第に柔かに次第に夢のようになって、丁度極く遠い遠い所から聞えて来るようである。 夢のような女の物語はこうである。「内には真白い間が一間ございますの。思って御覧あそばせ。壁が極く明・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・そうして血みどろになって猛烈に踊り続ける。それを見まもる者はその血の歓びを神の恩寵として感じている。その彼らはまた処女の神聖を神にささげると称して神殿を婚姻の床に代用する。性欲の神秘を神に帰するがゆえに、また神殿は娼婦の家ともなる。パウロは・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・青春の弾性を老年まで持ち続ける奇蹟は、ただこの教養の真の深さによってのみ実現されるのです。 元来肉体の老衰は、皮膚や筋肉がだんだん弾性を失って行くという著しい特徴によって、わりに人の目につきやすいようですが、精神の力の老衰は一般に繊細な・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫