編輯者 支那へ旅行するそうですね。南ですか? 北ですか?小説家 南から北へ周るつもりです。編輯者 準備はもう出来たのですか?小説家 大抵出来ました。ただ読む筈だった紀行や地誌なぞが、未だに読み切れないのに弱ってい・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・自分の良心の上からばかりでなく、ほかの雑誌の編輯者に、さぞ迷惑をかけたろうと思うと、実際いい気はしない。○これからは、作ができてから、遣うものなら遣ってもらうようにしたいと思う。とうからもそう思っていたが、このごろは特にその感が深い。・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・そこで僕は今、この話を書く事によって、新小説の編輯者に対する僕の寄稿の責を完うしようと思う。もっとも後になって聞けば、これは「本間さんの西郷隆盛」と云って、友人間には有名な話の一つだそうである。して見ればこの話もある社会には存外もう知られて・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・が、少年の筆らしくない該博の識見に驚嘆した読売の編輯局は必ずや世に聞ゆる知名の学者の覆面か、あるいは隠れたる篤学であろうと想像し、敬意を表しかたがた今後の寄書をも仰ぐべく特に社員を鴎外の仮寓に伺候せしめた。ところが社員は恐る恐る刺を通じて早・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・その時分緑雨は『国会新聞』の客員という資格で、村山の秘書というような関係であったらしく、『国会新聞』の機微に通じていて、編輯部内の内情やら村山の人物、新聞の経営方針などを来る度毎に精しく話して聞かせた。こっちから訊きもしないのに何故こんな内・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 就中、社員が度々不平を鳴らし、かつ実際に困らせられたのは沼南の編輯方針が常にグラグラして朝令暮改少しも一定しない事だった。例えば甲の社員の提言を容れて直ぐ実行してくれと命じたものを乙の社員の意見でクルリと飜えして肝腎の提言者に通告もし・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・『彼は、其の日暮らしに、追われている』と、いう蔑視から、資本家や、編輯者等が、いまだ一介の無名の文筆家に対して、彼等の立場から、冷遇しなかったと何んで言えよう。況んや、私のように、逆境に立ち、尚お且つ反抗の態度に出て来た者を同情するより憎む・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・ だから、私は小説家というものが嘘つきであるということを、必要以上に強調したくないが、例えば私が太宰治や坂口安吾とルパンで別れて宿舎に帰り、この雑誌のN氏という外柔内剛の編輯者の「朝までに書かせてみせる」という眼におそれを成して、可能性・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・私の髪の毛が長いという理由で、私の原稿を毛嫌いするような編輯者は一人もいなかった。むしろ編輯者の中には私より髪の毛を長くしている頼もしい仁もあった。今や誰に遠慮もなく髪の毛を伸ばせる時が来たわけだと、私はこの自由を天に感謝した。 ところ・・・ 織田作之助 「髪」
・・・僕いま、親父の出している変てこな雑誌の編集を手伝っていて、実は音楽どころじゃないんです」と、白崎はまたまずいことを言いだしたが、しかし、あわてて、「――でも、切符送って下されば、どんなに忙しくても聴きに行きますよ」 どうやら、あなた・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
出典:青空文庫