・・・何事かを好み、傾くということがそのことへの愛と練達との基礎だからである。「この一技につながる」という決意は人間的にも肝要なものである。またそれとともに、職能というものは真摯にラディカルに従事して行けば、必ず人生哲学的な根本問題に接触してくる・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・武術に練達していなければ、絶対に胆がすわらない。万巻の書を読んだだけでは駄目だ。坊主だってそうです。偉い宗教家は例外なく腕力が強い。文覚上人の腕力は有名だが、日蓮だって強そうじゃないか。役者だってそうです。名人と言われるほどの役者には、必ず・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ブルジョア作家たちは、その本質から、作家としての完成を個人的自己完成としてしか理解し得ないため、その努力を取材から取材への一見めあたらしげな転々たる移行およびその扱いかた、書きかたの練達へと集中する。彼らはいかに数多く一つから一つへと書きま・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・読者は、このエピソードに、ソヴェトの人々の四角四面で素朴な合理主義が、スタインベックの練達した話術のトリックにかかるモメントを目撃しないわけに行かない。そして、このエピソードにおけるスタインベックの成功を慶賀するよりも、現代においてすぐれた・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・伊東忠太氏が漫画をかかれます。練達とともに非常に或るテムペラメントの現れたものをかかれます。父が漫画めいたものを描いたとしたら、果してどんな線や色で、自身のあの政治的でない気質、淡白さ、ある子供っぽさのようなものを表現したでしょう。どのよう・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・先生は、人生の練達者であられたから、恐らく様々な複雑困難な、日本の社会では特に女にとって面倒な将来の永い路を見とおされて、大乗的激励を与えて下さったのであったろうと思う。 それから、案の定私のところには生活のいろいろな大小の濤がおこり、・・・ 宮本百合子 「坪内先生について」
・・・住吉の社頭で大矢数一昼夜に二万三千五百句を吐いた西鶴が、そのような早口俳諧をもってする風俗描写の練達から自然散文の世界に入って、浮世草子「好色一代男」などを書き始めた必然の過程は、人生と芸術への疑いにみたされていた桃青にどのような感想を与え・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・そうであるとすれば、作家は益々、社会における人間の客観的な関係、価値、意味などの有機的な結合の末で、それぞれの人間性の発露というものも捕えることを学ばなければならず、それに練達しなければならない。客観的に描くということが、傍観的態度を意味な・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・世わたり上手が洞察のできない歴史性の上で、生活の練達者とならなければならない。恋愛や結婚が人間の人格完成のためにある、といえばそれは一面の誇大であるが、真の愛の情熱は驚くばかりに具体的なものである。必要を鋭くかぎわける。理論的には進歩的に見・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫