・・・ところが何時の間にか伝統の縄張りが朽ちて跡方もなくなって、普通選挙の広い野原が解放されてしまった。これはいい事だか悪い事だか見当が付かないが、ともかくもどうする事も出来ない事実である。 そうなると、批評というものの意味はもう昔とは大分違・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・は出て来ないし、その縄張りの中を隈なく捜しても「神」は居ない。そうして科学の中にこれがないという事は、それがどこにもないという証拠には少しもならない。もしそういう人があれば、それは室中を捜して魚が居ないというようなものである。 芸術とは・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・千束町から土手に到る間の小さな飲食店で飲んでいると、その辺を縄張り中にしている無頼漢は、必折を窺って、はなしをしかける。これが悶着の端緒である。之を避けるには便所へでも行くふりをして烟の如く姿を消してしまうより外はない。当時の無頼漢は一見し・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張りを設けて、いい加減なところに幅を利かして満足すべきところを、足に任せて天下を横行して、憚からぬのが災になる。人が咎めれば云う。おれの地面と君の地面との境はどこだ。境は自分がきめ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張りを設けて、いい加減なところに幅を利かして満足すべきところを、足に任せて天下を横行して、憚からぬのが災になる。人が咎めれば云う。おれの地面と君の地面との境はどこだ。境は自分がきめ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・一つは自分の縄張うちへ這入って来て、似寄った武器と、同種の兵法剣術で競争をやる。元来競争となるとたいていの場合は同種同類に限るようです。同種同類でないと、本当の比較ができないからでもあるし、ひとつ、あいつを乗り越してやろうと云う時は、裏道が・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
出典:青空文庫