・・・ 室内を縦断する通路の自分とは反対側の食卓に若い会社員らしいのが三人、注文したうなぎどんぶりのできるのを待つ間の談笑をしている。もっぱら談話をリードしているその中の一人が何か二言三言言ったと思うと他の二人が声をそろえて爆笑する、それに誘・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・それからこの颱風の中心は土佐の東端沿岸の山づたいに徳島の方へ越えた後に大阪湾をその楕円の長軸に沿うて縦断して大阪附近に上陸し、そこに用意されていた数々の脆弱な人工物を薙倒した上で更に京都の附近を見舞って暴れ廻りながら琵琶湖上に出た。その頃か・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・そういう時はたいていきまって著しい不連続線が日本海を縦断して次第に本州に迫って来る際であって同時に全国いったいに気温が急に高まって来るのが通例である。そういう時にたとえばラジオによって全国に火事注意の警報を発し、各村役場がそれを受け取った上・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・今度の小説では、社会の各層の縦断です。ゆっくり、根気よく、仕事に要される持続力の全幅を傾けてやりましょう。 M子のために買ってやったフランス語の第一課を見たら〔欧文約十八語抹消〕「忍耐は日常不断の勇気である」又〔欧文約十二語抹消〕「天才・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫