・・・勿論骨董としてあったのではなく、一家の繁栄を祈るべき宗門神としてあったのですが。 その稲見の当主と云うのは、ちょうど私と同期の法学士で、これが会社にも関係すれば、銀行にも手を出していると云う、まあ仲々の事業家なのです。そんな関係上、私も・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・そんなことが、たび重なるにつれて、その木の子や、孫が地面上に殖えていって繁栄するのです。」と、お母さんは、おっしゃいました。「考えると、不思議なもんですね。」「それだから、美しい実のなるのも、木には、深い意味があるので、自分の種類を・・・ 小川未明 「赤い実」
・・・ しかし、A病院は、いまも繁栄しているけれど、慈善病院は、B医師の死後、これを継ぐ人がなかったために滅びてしまいました。その建物も、いつしか取り払われて、跡は空き地となってしまったけれど、毎年三月になると、すいせんの根だけは残っていて、・・・ 小川未明 「三月の空の下」
・・・ そこで宿屋や、飲食店の商売繁栄策としても内地米が目標となる。 こんなのは、昨年の旱魃にいためつけられた地方だけかと思っていたら、食糧の供給を常に農村に仰がなければならない都会では、もっとすさまじいらしい。農村よりはよほどうまいもの・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・正平の十九年に此処の道祐というものの手によって論語が刊出され、其他文選等の書が出されたことは、既に民戸の繁栄して文化の豊かな地となっていたことを語っている。山名氏清が泉州守護職となり、泉府と称して此処に拠った後、応永の頃には大内義弘が幕府か・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・動物の群集にもあれ、人間の社会にもあれ、この二者のつねに矛盾・衝突すべき事情のもとにあるものは滅亡し、一致・合同しえたるものは繁栄していくのである。 そして、この一致・合同は、つねに自己保存が種保存の基礎であり、準備であることによってお・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・本来の性質ではない、否な彼等は完全に一致・合同し得べき者、させねばならぬものである、動物の群集にもあれ、人間の社会にもあれ、此二者の常に矛盾・衝突すべき事情の下に在る者は衰亡し、一致・合同し得たる者は繁栄し行くのである。 而して此一致・・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・黄村の塾はそろそろと繁栄しはじめた。噂を聞いた江戸の書生たちは、若先生から手紙の書きかたをこっそり教わりたい心から黄村に教えを求めたのである。 三郎は思案した。こんなに日に幾十人ものひとに手紙の代筆をしてやったり口述をしてやったりしてい・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・現代都市の繁栄は空気の汚濁の程度で測られる。軍国の兵力の強さもある意味ではどれだけ多くの火薬やガソリンや石炭や重油の煙を作り得るかという点に関係するように思われる。大砲の煙などは煙のうちでもずいぶん高価な煙であろうと思うが、しかし国防のため・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・残存し繁栄した種族は自衛の能力あるものか、しからざれば人間の保護によるものであると付け加えている。そして半人半獣の怪物が現存し得ざるゆえんを説いているのである。 次には原始人類の生活状態から人文の発達の歴史をかなり詳しく論じている。これ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫