・・・たゞこれを漫然と繙くものに、いずこにか、ナロードニーキの運動を嗤う権利があろう? 現代は、科学的という言葉に、あまり多くの意味を置きすぎている。科学的に、人間生活が解釈され得るとするも、それは、ある部分にしかすぎない。社会科学の場合と常・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・蹂み躙られたる薔薇の蕊より消え難き香の遠く立ちて、今に至るまで史を繙く者をゆかしがらせる。希臘語を解しプレートーを読んで一代の碩学アスカムをして舌を捲かしめたる逸事は、この詩趣ある人物を想見するの好材料として何人の脳裏にも保存せらるるであろ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・春の宿 ある人に句を乞はれて返歌なき青女房よ春の暮 琴心挑美人妹が垣根三味線草の花咲きぬ いずれの題目といえども芭蕉または芭蕉派の俳句に比して蕪村の積極的なることは蕪村集を繙く者誰かこれを知らざらん。一々ここに贅・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・勿論、退屈な時、手当り次第に雑誌でも繙くように其場かぎりな、相手にも自分にも責任をもたない気分で目だけ楽しませようと云うのならば何も云うべきことはない。けれども、現在は兎に角、将来の長い時間の為に、女優劇は、今のような、一段、気を許した雰囲・・・ 宮本百合子 「印象」
出典:青空文庫