・・・それは十二文豪の一篇として書いたものだが、すっかり書き終らなかったもので、丁度病中に細君が私の処へその原稿を持って来て、これを纏めて呉れないかという話があって、その断片的な草稿を文字の足りない処を書き足して、一冊の本に纏めたという縁故もあり・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・の諸家の序やら跋やら、または編者の筆になるところの年譜、逸話集、写真説明の文など、諸処方々から少しずつ無断盗用して、あやうく、纏めた故葛原勾当の極めて大ざっぱな略伝である。その人と為りに就いての、私一個人の偽らぬ感想は、わざと避けた。日記の・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・ただ彼が昨年の五月ライデンの大学で述べた講演の終りの方に、「素量説として纏められた事実があるいは『力の場』の理論に越え難い限定を与える事になるかもしれない」と云っている。この謎のような言葉の解釈を彼自身の口から聞く事の出来る日が来れば、それ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ それについて私の平生の疑問は、これらの連作をされる方々が、どういう方法で一聯の連作を纏めておられるかということであります。一見したところでは、人によってこれはずいぶん色々であるように思われます。しかし私の素人考えではこの方法論はかなり・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・表通りの店屋などでも荷物を纏めて立退用意をしている。帰ってみると、近所でも家を引払ったのがあるという。上野方面の火事がこの辺まで焼けて来ようとは思われなかったが万一の場合の避難の心構えだけはした。さて避難しようとして考えてみると、どうしても・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・五人の子供が銘々に隠しあって描いたのを長女が纏めて綴った後に発表する事にしていた。「みそさざい」という名前をつけて一週間に一回くらいずつ発行したのが存外持続して最近には第九号が刊行されたようである。表紙画は順番で受け持つ事になっているらしい・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ これはずっと後のことであるが、ここへ通いながら纏めた小さな仕事を気象のコロキウムで話すように教授から命ぜられたとき、言葉が下手だからと云って断ったが、自分がすけてやるからぜひやれと云われ、仕方なしに黒板の前に立たされた。その時の苦しみ・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・道太はあの時病躯をわざわざそのために運んできて、その翌日あの大地震があったのだが、纏めていった姪の縁談が、双方所思ちがいでごたごたしていて、その中へ入る日になると、物質的にもずいぶん重い責任を背負わされることになるわけであった。それを解決し・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・複雑な特性を簡単に纏める学者の手際と脳力とには敬服しながらも一方においてその迂濶を惜まなければならないような事が彼らの下した定義を見るとよくあります。その弊所をごく分りやすく一口に御話すれば生きたものを故と四角四面の棺の中へ入れてことさらに・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・要するに複雑な内容を纏め得る程度以上に纏めた簡略な形式にして見せろと逼られるのだから困ります。もっとも近来は小学校などでも生徒に問題を出して日本の現代の人物中で誰が一番偉いかなどと聞く先生がある。この間私が或る地方へ行ったらある新聞でそうい・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫