・・・――そう思うと修理は、どんな酷刑でも、この不臣の行を罰するには、軽すぎるように思われた。 彼は、内室からこの話を聞くと、すぐに、以前彼の乳人を勤めていた、田中宇左衛門という老人を呼んで、こう言った。「林右衛門めを縛り首にせい。」・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 然し運命が私の我儘と無理解とを罰する時が来た。どうしてもお前達を子守に任せておけないで、毎晩お前たち三人を自分の枕許や、左右に臥らして、夜通し一人を寝かしつけたり、一人に牛乳を温めてあてがったり、一人に小用をさせたりして、碌々熟睡する・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・けれど、逃げた小鳥にべつに罪のあるわけでありませんから、それを罰することができませんでした。ただ、めくら星が毎夜、地に近く降りて鳥を探しているのを不憫と思われて、これはいくら探してもわかろうはずはないから、逃げた鳥は、ほかの鳥のように昼間は・・・ 小川未明 「めくら星」
・・・だが、それは表沙汰にして罰すると、自分の折角の勲功がふいになってしまうのだった。部下を指揮する手腕が十分でなかった責任は当然彼の上にかかって来るからだ。不届きな兵タイは、ほかの機会にひどいめにあわしてやることにして、今は、かくしておくことに・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・あなたを罰する法律が無いので、いやになったのですよ。お帰りなさい。 ――ありがとう存じます。 ――あ、ちょっと。一つだけ、お伺いします。奥さんが殺されて、女学生が勝った場合は、どうなりますか? ――どうもこうもなりません。そいつ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・「罪あるを罰するは王者の事か」「問わずもあれ」と答えたアーサーは今更という面持である。「罪あるは高きをも辞せざるか」とモードレッドは再び王に向って問う。 アーサーは我とわが胸を敲いて「黄金の冠は邪の頭に戴かず。天子の衣は悪を隠さ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・これすなわち学者に兵馬の権を仮さずして、みだりに国政を是非せしめず、罪を犯すものは国律をもってこれを罰するゆえんなり。 ゆえに世の富豪・貴族、もしくは政をとるの人、天理人道の責を重んじ、心を虚にして気を平にし、内に自からかえりみて、はた・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・さらに、この年の春、日本の急進的文化団体への大規模の暴圧があり、治安維持法は政党以外の大衆的な団体も同列に罰することになった。 この錯雑した諸事情がからみあって、どんな紛糾を生じたかは誰にもよく想像されるであろうと思う。社会主義リアリズ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・なお、平山検事さんらは『いくら否認しても、新刑事訴訟法では認定で罰することができる。この事件には外山、田代、伊藤、清水も――あとから飯田も共同謀議に参加している』といいました。これはまったく事実でないことですが、しかし」「証拠がなくても認定・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・等によって、明治以来、政府は文化政策というのを持たなかったと云われ、アカデミーの問題も今日そこのことからふれられているのであるが、明治初期から文化振興のための政策はなかったかもしれないが、その或る面を罰することには決して吝でなかったことが分・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫