・・・と題して、船場娘の美人投票を募集するなど、変なことを考えついたのも、おれだった。これは随分当って、新聞は飛ぶように売れ、有料広告主もだんだん増えた。 もっとも、こう言ったからとて、べつだん恩に着せようというのではない。それに、もともとこ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・評判の美人である。彼女は前庭の日なたで繭をにながら、実際グレートヘンのように糸繰車を廻していることがある。そうかと思うと小舎ほどもある枯萱を「背負枠」で背負って山から帰って来ることもある。夜になると弟を連れて温泉へやって来る。すこやかな裸体・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・――美人の宙釣り。力業。オペレット。浅草気分。美人胴切り。 そんなプログラムで、晩く家へ帰った。 病気 姉が病気になった。脾腹が痛む、そして高い熱が出る。峻は腸チブスではないかと思った。枕・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・その少女はなかなかの美人でした」「ヨウ! ヨウ!」と松木は躍上らんばかりに喜こんだ。「どちらかと言えば丸顔の色のくっきり白い、肩つきの按排は西洋婦人のように肉附が佳くってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の、パチリとはしないが・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 猶お友の語るところに依れば、お露は美人ならねどもその眼に人を動かす力あふれ、小柄なれども強健なる体格を具え、島の若者多くは心ひそかにこれを得んものと互に争いいたるを、一度大河に少女の心移や、皆大河のためにこれを祝して敢て嫉もの無かりし・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・「停車場で君がバルシニャと話しているのをきいたことがあるよ――美人だったじゃないか。」「あの女は、何でもない女ですよ。何も関係ありゃしないんです。」彼は、リザ・リーブスカヤのことを思い出して、どぎまぎして「胸膜炎で施療に来て居るから・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ いちばん高級な読書の仕方は、鴎外でもジッドでも尾崎一雄でも、素直に読んで、そうして分相応にたのしみ、読み終えたら涼しげに古本屋へ持って行き、こんどは涙香の死美人と交換して来て、また、心ときめかせて読みふける。何を読むかは、読者の権利で・・・ 太宰治 「一歩前進二歩退却」
・・・「や、美人を雇いやがった。こいつあ、凄い」 と客のひとりが言いました。「誘惑しないで下さいよ」とご亭主は、まんざら冗談でもないような口調で言い、「お金のかかっているからだですから」「百万ドルの名馬か?」 ともうひとりの客・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・たとえば歌麿の美人一代五十三次の「とつか」では、二人の女の髷の頂上の丸んだ線は、二人の襟と二つの団扇に反響して顕著なリズムを形成している。写楽の女の変な目や眉も、これが髷の線の余波として見た時に奇怪な感じは薄らいでただ美しい節奏を感じさせる・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・ヒロインの美人ナヴァラナの顔が郷里の田舎で子供の時分に親しかった誰かとそっくりのような気がすることから考えると、日本人の中に流れている血がいくらかはこの土人の間にも流れているのではないかという気がする。ある場面に出て来る小さな男の子にもどう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
出典:青空文庫