・・・一種の人間としての魅力が、普通考える美点、美徳でない場合も多くあります。私は男にしろ、女の人にしろ、人生に其の人としての感情、見方をはっきり持っているのを見ると、心を惹かれ興味を覚えます。情感のゆたかな深い点に触れ得る人は好しいものです。・・・ 宮本百合子 「異性の何処に魅せられるか」
・・・ あらゆる国々の習俗には、悉く美点と欠点とが並行しています。人間が、或る場合自己の天分によって却って身を過つことがあるように、一国にしても、或る時には、その是とすべき伝統的習俗によって、却って真実な人間的生活に破綻を生ぜしめることが多く・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 偉大な人々の、実に数えきれないほどたくさんのそれ等の美点と美点とが、変化窮りない自由さと、力とにおいて、結合し、融合したときに発する光明の連続が、今、自分にこのような感動を与える。彼女は、彼等が、ただ正直な人間というものでもなく、意志・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・昔のオランダ人なんかは随分、そういう長崎婦人の美点をエンジョウイしたらしいことよ。幕府では、オランダ人が細君を連れて来ることを、政策上許さなかったんですって。或人が折角夫人同伴で来たのに、上陸も許されないで直ぐ其船で追帰されなければならない・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・その時、私たち人間が男も女も一層のびのびとした心持で、互いの美点を認め合い、互いの面白さを喜び合うことが出来る。人間の社会の歴史は実にのろく前進するけれども、やっとそこまで進歩したことを祝福しあって、心からその肉体をも結び合す愉快さをそうい・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・彼の美点であり、弱点である正直などこまでも控目勝ちなところを彼等は、どしどしと利用するのである。 利用するとまではっきり意識しないでも、皆があまりぞっとしないことを、禰宜様宮田のところへさえ持って行けば遣ってくれるから、どうしても彼に押・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 母は情熱的な気質で、所謂文学的で多くの美点を持っていたが、子供達に対する愛情の深さも、或る時は却ってその尊ぶべき感情の自意識の方がより強力に母の実行を打ちまかすことがあった。私はそういう母の愛についての理窟には困った。父もまた良人又は・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫