・・・いろいろな羽虫が本当にその火の中に飛んで行くのも私は見ました。向うでもこっちでも繃帯をしたり、きれを顔にあてたりしながら、まちの人たちが火をたいていました。 そのうちに、私は向うの方から、高い鋭い、そして少し変な力のある声が、私の方にや・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・蜂すずめは花の蜜をたべ、かわせみはお魚を食べ、夜だかは羽虫をとってたべるのでした。それによだかには、するどい爪もするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがる筈はなかったのです。 それなら、たかという名のつ・・・ 宮沢賢治 「よだかの星」
・・・ 心に何もない幼児のように、ついと嘴を押して、ぴったり隣によりついた仲間の羽虫をとってやる。いい心持なのだろう。取られる方は、のびのびと眼をつぶり、頭の上にあおむけ、いつまでもいつまでもという風に喉の下などを任せている。仲間がもうやめに・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・その俤には、稚いこころに印された、ふくよかに美しい二枚重ねの襟元と、小さい羽虫を誘いよせていた日向の白藤の、ゆたかに長い花房とが馥郁として添うているのである。 孝子夫人と母と、この二人の女いとこは、溌溂とした明治の空気のなかから生れ出て・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・椿の花の下でしきりに羽虫を取りっこして居る二つの白いかたまりを見ながら日あたりのいい南の縁に足を投げ出して千世子は安っぽい――それでも絹の袢衿をやりながら云った。 お前がねえ、 鳩によくしてお呉れだからあげるんだよ、 だから・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 名無草と茶色の羽虫 いつまいたとも知れない種が芽を出した。そして花を持った。 草っぱらのすみっこにおしつけられたようになって…… それで居て勢よく二十本ばかりはスックとそろって出た。 いつだったか掃除の・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ ◎ハッとして息をとめた瞬間、空中に一杯になって居る小っぽけな羽虫が、一どきにオミヨ、オミヨ、ワラー と大変早口にうたったように聴えた。低いふざけたような音は、そこから、どこまでと云う区切りをつけられないほど広くから起って来た。そし・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
出典:青空文庫