・・・ つまり今後の諸君のこの土地における生活は、諸君が組織する自由な組合というような形になると思いますが、その運用には相当の習練が必要です。それには、従来永年この農場の差配を担任していた監督の吉川氏が、諸君の境遇も知悉し、周囲の事情にも明ら・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 二葉亭時代の人は大抵国漢文の秩序的教育を受けたから、国漢文の課題文章の習練にはかなり苦まされて文学即文章の誤った考を吹込まれていた。当時の文章教育というのは古文の摸倣であって、山陽が項羽本紀を数百遍反覆して一章一句を尽く暗記したという・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 一つよりも十の習練である。十の習練よりも二十の習練である。初めから文章のうまみとか華やかさとを希ってはならない。明瞭に考え、正しく見てわれ/\は進んでゆくべきである。更にどこまでも誠実な態度をとること、ものゝあるがまゝの姿に即すことを・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・私にはたんにそれが女学校などで遊戯として習得した以上に、何か特別に習練を積んだものではないかと思われたほどに、それほどみごとなものであった。Tもさすがに呆気に取られたさまで、ぼんやり見やっていたが、敗けん気を出して浪子夫人のあとから鎖につか・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・誰しもはじめは、お手本に拠って習練を積むのですが、一個の創作家たるものが、いつまでもお手本の匂いから脱する事が出来ぬというのは、まことに腑甲斐ない話であります。はっきり言うと、君は未だに誰かの調子を真似しています。そこに目標を置いているよう・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・「誰しもはじめは、お手本に拠って習練を積むのですが、一個の創作家たるものが、いつまでもお手本の匂いから脱する事が出来ぬというのは、まことに腑甲斐ない話であります。はっきり言うと、君は未だに誰かの調子を真似しています。そこに目標を置いているよ・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・学位記というものは、云わば商売志願の若者が三年か五年の間ある商店で実務の習練を無事に勤め上げたという考査状と同等なものに過ぎない。学者の仕事は、それに終るのではなくて、実はそれから始まるのである。学位を取った日から勉強をやめてしまうような現・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ こういう早わざをしとげるためには、もとより天賦の性能もあろうが、主として平素の習練を積むことが必要で、これは水練でも剣術でも同じことであろうと思われる。 学生の時分に天文観測の実習をやった。望遠鏡の焦点面に平行に張られた五本の蜘蛛・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・こういう風に、聯想の火薬に点火するための口火のようなものを巧みに選び出す伎倆は、おそらく俳諧における彼の習練から来たものではないかと思われる。もう一つの例は『一代女』の終りに近く、ヒロインの一代の薄暮、多分雨のそぼ降る折柄でもあったろう「お・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・そういうふうに考えてみると、単に早取り写真のようなものならば技巧の長い習練によって仕上げられうるものかもしれないが、ある一人の生きた人間の表現としての肖像は結局できあがるという事はないものだとも思われた。あるいはその点に行くとかえって日本画・・・ 寺田寅彦 「自画像」
出典:青空文庫