・・・のみならず舷梯を上下するのは老若の支那人ばかりだった。彼等は互に押し合いへし合い、口々に何か騒いでいた。殊に一人の老紳士などは舷梯を下りざまにふり返りながら、後にいる苦力を擲ったりしていた。それは長江を遡って来た僕には決して珍しい見ものでは・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・つまり奈良の老若をかつごうと思ってした悪戯が、思いもよらず四方の国々で何万人とも知れない人間を瞞す事になってしまったのでございます。恵印はそう思いますと、可笑しいよりは何となく空恐しい気が先に立って、朝夕叔母の尼の案内がてら、つれ立って奈良・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・くような、うらさみしい、冴えた、透る、女の声で、キイキイと笑うのが、あたかも樹の上、雲の中を伝うように大空に高く響いて、この町を二三度、四五たび、風に吹廻されて往来した事がある……通魔がすると恐れて、老若、呼吸をひそめたが、あとで聞くと、そ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・そこで、この面々が、年齢の老若にかかわらず、東京ばかりではない。のみならず、ことさらに、江戸がるのを毛嫌いして「そうです。」「のむです。」を行る名士が少くない。純情無垢な素質であるほど、ついその訛がお誓にうつる。 浅草寺の天井の絵の天人・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・こは一般に老若が太く魔僧を忌憚かり、敬して遠ざからむと勤めしよりなり、誰か妖星の天に帰して、眼界を去らむことを望まざるべき。 ここに最もそのしからむことを望む者は、蝦蟇と、清川お通となり。いかんとなればあまたの人の嫌悪に堪えざる乞食僧の・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・ 焼夷弾投下のためにけがをする人は何万人に一人ぐらいなものであろう。老若のほかの市民は逃げたり隠れたりしてはいけないのである。空中襲撃の防御は軍人だけではもう間に合わない。 もしも東京市民があわてて逃げ出すか、あるいはあの大正十二年・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 焼夷弾投下のために怪我をする人は何万人に一人くらいなものであろう。老若の外の市民は逃げたり隠れたりしてはいけないのである。空中襲撃の防禦は軍人だけではもう間に合わない。 もしも東京市民が慌てて遁げ出すか、あるいはあの大正十二年の関・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ これは顔だけから見た人猿優劣比較論であり、老若賢愚比較論である。 これに似た比較論が世間では普通に行われている。財産の多寡で個人の価値を秤量するのが一つ。皮膚の色で人種の等級をきめようとするのが一つ。試験の成績やメンタルテストで人・・・ 寺田寅彦 「猿の顔」
・・・そして柔らかく温かに湿った湯気の中に動いている人の顔にも、鏡の前に裸で立ちはだかって頬を膨らしてみたり腹を撫でてみたりしている人の顔にも、湯槽の水面に浮んでいるデモクラチックな顔にも、美醜老若の別なく、一様に淡く寛舒の表情が浮んでいる。・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・また右手の小高き岡に上って見下ろせば木の間につゞく車馬老若の絡繹たる、秋なれども人の顔の淋しそうなるはなし。杉の大木の下に床几を積み上げたるに落葉やゝ積りて鳥の糞の白き下には小笹生い茂りて土すべりがちなるなど雑鬧の中に幽趣なるはこの公園の特・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
出典:青空文庫