・・・しかし俺もこの頃は考え方が少しちがって来た」「そうか」 堯はその日の出来事を折田に話した。「俺はそんなときどうしても冷静になれない。冷静というものは無感動じゃなくて、俺にとっては感動だ。苦痛だ。しかし俺の生きる道は、その冷静で自・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・人間の倫理観のさまざまなる考え方、感じ方、解決のつけ方等をそれぞれの立場に身をおいて、感味して見るのもいい。それは人間としての視野をひろくし、道徳的同情を豊かに、細緻にするからだ。 近世倫理学史も、哲学史のように、カントに集まって、カン・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それが青年を美しくし、弾力を与え、ものの考え方を純真ならしめる動機力なのだ。 私は青春をすごして、青春を惜しむ。そして青春が如何に人生の黄金期であったかを思うときにその幸福を惜しめとすすめたくなるのだ。そしてそれには童貞をなるだけ長く保・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・その物の考え方は、もうプロレタリアートのそれではない。無産階級運動の妨げにこそなれ、役には立たないのである。そういう奴等は、一とたび帝国主義××が起れば、反対するどころか、あわてはためいて、愛国主義に走ってしまうのだ。 三・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・―― 僅か七十銭の賃銀を、親じはこんな考え方で慰めていた。その只の長屋も、家に働く者がなくなれば追い立てをくうのだ。 市三は、どれだけ、うら/\と太陽が照っている坑外で寝ころんだり、はねまわったりしたいと思ったかしれない。金を出さず・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・知る人もすくない遠い異郷の旅なぞをしてみ、帰国後は子供のそばに暮らしてみ、次第に子供の世界に親しむようになってみると、以前に足手まといのように思ったその自分の考え方を改めるようになった。世はさびしく、時は難い。明日は、明日はと待ち暮らしてみ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・私は自分の側に来たものの顔をつくづくと眺めて、まるで自分の先入主となった物の考え方や自分の予想して居たものとは反対であるのに驚かされた。私は尋ねて見た。「お前が『冬』か。」「そういうお前は一体私を誰だと思うのだ。そんなにお前は私を見・・・ 島崎藤村 「三人の訪問者」
・・・人間はみな同じものだなんて、なんという浅はかなひとりよがりの考え方か、本当に腹が立ちます。それは、あのお方が十七歳になられたばかりの頃の事だったのですが、おからだも充分に大きく、少し、伏目になってゆったりとお坐りになって居られるお姿は、御所・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・計算は上手でなくても考え方が非常に巧妙であった。ある時彼の伯父に当る人で、工業技師をしているヤーコブ・アインシュタインに、代数学とは一体どんなものかと質問した事があった。その時に伯父さんが「代数というのは、あれは不精もののずるい計算術である・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・始めから発声映画を取って考えるのと、無声映画時代というものを経て来た後に現われた発声映画を考えるのとでは、考え方によほどな隔たりがある。しかしここでは実際の歴史に従ってまず無声映画を考えた後に、改めて別に発声映画の問題に立ち入りたいと思う。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫