・・・治まる聖代のありがたさに、これぞというしくじりもせず、長わずらいにもかからず、長官にも下僚にも憎まれもいやがられもせず勤め上げて来たのだ。もはやこうなれば、わしなどはいわゆる聖代の逸民だ。恩給だけでともかくも暮らせるなら、それをありがたく頂・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・明治の聖代の今日だって、犬塚信乃だの犬飼現八だの、八郎御曹司為朝だの朝比奈三郎だの、白縫姫だの楠こまひめだののような人は、どうも見当りません。まして火の中へ隠れてしまう魔法を知って居る犬山道節だの、他人の愛情や勇力を受けついでくれる寧王女の・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・一つは、明治・大正・昭和に亙る聖代に日本古来の文学的様式である和歌の歩んで来た成果を収めて、今日の記念とする意味であり、他方には純粋に歌壇の歴史的概括としての集成の事業である。 この「新万葉集」のために歌稿をよせた作者の数は一万八千人で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・明治の聖代になってから以還、分明に前人の迹を踏まない文章が出でたということは、後世に至っても争うものはあるまい。露伴の如きが、その作者の一人であるということも、また後人が認めるであろう。予はこれを明言すると同時に、予が恰もこの時に逢うて、此・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫