・・・ふっと一言、聴取出来た。私は、敢然と顔を挙げ、「提燈行列です。」と兄に報告した。 兄は一瞬、へんな顔をした。とたんに、群集のバンザイが、部屋の障子が破れるばかりに強く響いた。 皇太子殿下、昭和八年十二月二十三日御誕生。その、国を・・・ 太宰治 「一燈」
・・・ こんな経緯で、私の家にもラジオというものが、そなわったけれども、私は相かわらず、あちこち、あちこちなので、しみじみ聴取した事は、ほとんど無いのである。たまに私の作品が放送せられる時でも、私は、うっかり聞きのがす。 つまり、一言にし・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・の中のトリゴーリンの独白を書簡集のあちこちの隅からかすかに聴取できただけのことであった。 読者あるいは、諸作家の書簡集を読み、そこに作家の不用意きわまる素顔を発見したつもりで得々としているかも知れないが、彼等がそこでいみじくも、掴まされ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・そして、その最後の余韻が吉原の遊里において殊に著しく聴取せられた事をここに語ればよいのである。 遊里の存亡と公娼の興廃の如きはこれを論ずるに及ばない。ギリシャ古典の芸術を尊むがために、誰か今日、時代の復古を夢見るものがあろう。甲戌十・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・見ると、イ警第三二五六号 聴取の要有之本日午後三時本警察署人事係まで出頭致され度し一九二七年六月廿九日第十八等官レオーノ・キュースト殿とあったのです。 ああ、あのデストゥパーゴのことだな、これはおもしろい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・の時の話し方で聴取者の腹の底までしみ渡りました。渡辺氏は、宗教が、たとえば宗教裁判や戦争挑発によって過去に人類的罪悪を犯したのは――反科学的であったのは、宗教が宗教の外へ出て行動した場合だけであったと言いました。が、渡辺氏は、そういう理論づ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 私はパパ、ママはいけないという松田文相の小学放送の試みや、ラジオにでるにはなかなかお金がかかるんでねえと打ちかこった或る長唄の師匠の言葉などを思い出しながら、その声をきいているのであった。 聴取料が五十銭になったことは、ラジオに対・・・ 宮本百合子 「或る心持よい夕方」
・・・つまりラジオ拡声装置所は集団農場の拡大につれ二万四千から五万千ヵ所に、聴取者は二百万人だったのが四百万人になろうとしている。 次に見落してならないのは映画館の増大だ。五ヵ年計画の初めシネマ館は一万五千三百あった。ここにも晴れやかな拡張だ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・しかし、おびただしい数の聴取者を持っている文化施設として、ソヴェト同盟が絶えずラジオを文化戦線の最前列に立たせようと努力していることは、はっきりと云える。例えばモスクワの郵電省の一部に特別なラジオ学校見たいなものがあって、直接産業別の労働組・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の芝居・キネマ・ラジオ」
・・・田舎の家で、雑音だらけのラジオながら、熱心に九時のニュースをきき、世界の動きが身に伝わる感じでいたら、それにつづいて、局からのお知らせを申上げます、と全波聴取のことが告げられた。 日本のラジオが、今日まで国内放送しか聴かれず、全波は禁止・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫