・・・日本の自覚あるすべての勤労者が、歴史のうちに描きだす自分たちの人生を大切に思い、自分たちの生命の価値を表現する職務を愛し、自分とすべての人々のために力ある組織をもちはじめているいま、人生を感受することの最も鋭いはずの作家たちが、自分たちも組・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ アメリカやイギリスその他の国々で、看護婦の私的生活は、職務からすっかりきりはなされていて、例えば結婚して妊娠すれば、母となるという仕事は、看護婦という職業の面からきりはなされて、その人個人の処置にゆだねられます。モスクワの病院では、労・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・検事という職務の官吏が、みんな自家用自動車で通勤してはいない。弁当の足りないことを心のうちに歎じつつ、彼等も人の子らしく、おそろしい電車にもまれて、出勤し、帰宅していると思う。官吏の経済事情は、旧市内のやけのこったところに邸宅をもつことは許・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・自分は工場管理者という自分の職務の上で、何か手をぬいたり、雑作ないように問題を誤魔化したりしたことがあったろうか? 一度もない。彼女はこの裁縫工場へ管理者として派遣されてから、新しい三つの職場を殖し、作業を機械化し、三百人の労働者を増す程、・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・そういう仕事がすむと教区学校以来二十年の経験をかさねた小学校教師として、コンムーナの文化向上を終身の職務としてやっている。 はじめはたった十六ルーブリの月給で、それから十九ルーブリに、一九二七年にはコンムーナの生産経済の成長とともにやっ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして、それは、妻にののしられたにかかわらず科学者として職務の責任感から残留もした良人によって保たれた地位が妻にもたらしている条件である。もしこの科学者、官吏が命を失っていたらどうであろう。その人の努力、妻たる人の奮闘がどのようであろうとも・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・政府案第十二条は、この五人の委員が「任命後最高裁判所長の面前に於て正規の宣誓書に署名してからでなければその職務を行ってはならない」としている。正規の宣誓書の内容は一般に知らされていない。五人の委員はなにを誓わせられるのだろう。これまで日本の・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で不快な職務としてきらわれていた。 ―――――――――――――――― いつのころであったか。たぶん江戸で白河楽翁侯が政柄を執っていた寛政のころででもあっただろう。智恩院の桜・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・宮沢は直ぐに後悔した。職務が職務なのだから、発覚しては一大事だと思ったということは、僕にも察せられる。ところが、下女は今まで包ましくしていたのが、次第にお化粧をする、派手な着物を着る。なんとなく人の目に立つ。宮沢は気が気でない。とうとう下女・・・ 森鴎外 「独身」
・・・彼の職務は或る作品がいかなる芸術的価値を持つかを定めることではなく、ただそれが公開される場合に公衆に対していかなる影響を及ぼすかを精確に判定し、その影響が社会の秩序を紊乱し善良な風俗を壊乱するようなものであった場合に、その公開を禁止すること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫