・・・頭から白い毛糸肩掛をかぶった日本女が、唇の端から細いゴム管をたらしてねたまま横目で猫を見ていた。 寝台の横には楕円形のテーブルが置いてある。首がガクつくのをガーゼで巻いてある真鍮の呼鈴、一緒に、アスパラガスに似た鉢植が緑の細かい葉をふっ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 母さんが、毛糸肩掛を頭へかぶってしまうと、先ずミーチャが扉から外へとび出した。続いて父さんが出、一番しまいに母さんが出て、締りを見て、ポケットへ鍵をしまった。父さんは、トトトトト勢よく階段を先へかけ下りて行っちまった。ミーチャだって、・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・ 飯田の奥さんは大儀そうな風で、黒いレースの肩掛けを脱した。「この間じゅうはだんだんどうもお世話様でした。私もちょくちょく来たいとは思っても何しろ遠いもんですからね」 茶など勧めたが、飯田の奥さんの顔色がただでなく石川に見えた。・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・自分は正直に白状するが去年美術院の展覧会で初めてルノアルの原画を見たときにも、岸田君の不思議に美しい「毛糸肩掛せる麗子像」を見た時ほどは動かされなかった。 が、自分はここで岸田君の画を批評しようとするのではない。ただ、君の近著の『芸術観・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫